Eternal fantasy<後編>
王様レーダーとやらに反応を示したのは、先日探索したばかりの「竜王の城」だった。
「黒の魔法使い、生きていたんですね……」
「たぶん、クールの力を狙ってるんだろう。あの時も……そうだった」
竜王の城、最上階の「王の間」を目指しながら、ハーブは苦悶に満ちた表情で言った。
忘れもしない、あの忌々しい記憶。甘い言葉と誘惑でクールを奪い去った、一生憎んでも憎みきれない、あの黒い姿。
「クールさん、無事でしょうか」
「無事だよ、絶対に。あのクールがそう簡単にやられるはずないじゃん」
「……そうだよな、絶対に大丈夫だよな。なんたってあのクールさんだもんな」
「そうそう、あの身勝手で傲慢で自信家で計算高い人だよ? やられるはずないって」
「そうだよな! あの自己中でワガママで凄まじく執念深い、とんでもない悪党だもんな!!」
「おまえら……あいつがいないからって無茶苦茶だな……」
ハーブが呆れ声をあげた。
「事実じゃないですか。なにか反論できます?」
「いや……そりゃそうだけどよ……。あれでも昔はけっこう可愛かったんだぜ?」
「可愛い~? クールさんが!?」
ティノがおもいっきり怪訝そうに眉をしかめる。
「おう、泣きながら「大好きだよ、ハーブ」とか言ってぎゅ~っって抱きついてきたりしてよ。もうあの時の可愛さったら……なのに何であんな悪党に育っちまったんだか」
目頭に涙を滲ませながらハーブは言った。どことなく哀れに見える気がしないでもなく、ティノとチェルシーは苦笑した。
「想像つかないなぁ、クールがそんな可愛いことするなんて」
「まあ昔からひねくれ者ではあったけど、今よりはずーっっと素直だったぜ?」
「なのに何で、あんなことになっちゃったんですか?」
「それが分かりゃ苦労しねーって」
今度は深くため息をつくハーブであった。
レーダーに反応する「竜王の城」の最上階手前に位置する「王の間」を目指し、四人は悪戦苦闘のうえ、どうにか目前まで迫ったものの、「王の間」一歩手前でガルボが重症を負った。
「ガルボ!!」
「ひ、姫様……私のことは放っておいて、早く「王の間」へ……!!」
深手を負った脇腹を押さえ、ガルボは言うが、チェルシーが放っていけるはずもない。すぐさまガルボの脇に膝をついて回復魔法をかけるが、その間にも次々とモンスターが現れ、ハーブとティノが倒していく。 しかし倒しても倒しても復活してくるゾンビ型のモンスターを前に、二人は苦戦した。
「ハーブさん、ここは俺が何とかしますから、早く「王の間」に行って下さい!」
「っても、おまえ一人じゃ……」
「大丈夫です! それより早くクールさんを助け出さないと……!!」
「……分かった。ぜってぇ死ぬんじゃねーぞ、ティノ!!」
「この程度で死にませんよ……っ、これでも少しは強くなってるんです!」
ティノのその言葉に、ハーブはやや不安げながらもその場を離れ、「王の間」へ足を急がせた。
黒の竜が描かれた扉を勢いよく開き、ハーブは剣をかざしながら「王の間」に飛び込んでいった。
「さすがは世に名高い勇者、レモン・ハーブ。よく一人でここまで辿り着いたな」
部屋の中央に位置する大きな寝台の端に腰掛けたまま、王の姿を借りた黒の魔法使いフリスクが、不遜な笑みを浮かべながらハーブに目を向けた。ハーブは大きく目を見開く。
「クール……!!」
意識を失ったまま寝台の上に横たわるクールの姿を見て、ハーブがすぐさま駆け寄ろうとする。しかし次の瞬間、フリスクの放った魔法がハーブに直撃し、ハーブは床の上に倒れた。すぐに起き上がり、苦痛に眉をしかめ、フリスクを睨みつける。
「てめぇ……クールに何をした!?」
「新しい身体を与えてやったまでだ。もうじき「魔王」として目覚めるだろう」
フリスクはクールの銀の髪に口付け、愛しげにその身体を抱き寄せ、頬に唇を寄せる。ハーブの表情が苦悶に満ちた。立ち上がり、剣を手にフリスクに向かっていく。だがまたしても、フリスクとクールを包むバリアに阻まれた。雷撃に似たショックを受け、フリスクの目前に倒れる。
「無駄だ、既にクールの自我は完全に失われた。おまえを見ても、眉一つ動かさないだろう」
フリスクのその言葉に、ハーブは衝撃を隠せない表情をする。フリスクはクールの身体を静かに横たえると、ハーブの目前に歩み寄った。
「おまえの愛しい恋人は、私の手の中だ。二度とおまえの手には戻らない」
「てめぇ……っ!!」
ハーブは怒りを込めた瞳でフリスクを睨みつけ、剣を振り上げる。しかし突然、目の前の景色が揺れた。急速に身体中の力が抜け、ハーブの手から剣が落ちて床の上にカシャンと音をたてた。
「香が効いているようだな。動けないだろう?」
「何を……しやがった……っ!?」
身体中が熱くなるような妙な感覚に翻弄されながらフリスクを睨みつけるハーブの目前に膝をつき、フリスクはハーブの顎を捉え、冷酷な瞳で見据える。
「ハーブ……おまえも、私のものになれ。「光の勇者」の血をひく者」
「な……に……!?」
ハーブの目が大きく見開いた。フリスクはふっと微笑する。
「やはり知らなかったか。おまえはかつて「黒の王」を倒した「光の勇者」の血をひく者。私があの時、お前達の住む村を襲った理由……それはおまえを殺すためだった。二度と我が一族が「光の力」に脅かされないように」
あまりに唐突に突きつけられた真実。ハーブの目が驚愕に満ちる。
動揺を隠し切れないハーブに、フリスクはさらなる追い討ちをかけるように言葉を続けた。
「そう……あの村が滅ぼされたのは、おまえのせいだよ、ハーブ。おまえの仲間や師が殺されたのも、クールが「魔王」と成り果てたのも、全てはおまえの……」
「黙れ!!!」
突然、ハーブは声を荒げて強い瞳でフリスクを見据えた。
その瞳には強い怒りが宿っている。
「この程度では動揺しないか……さすがだな、ハーブ。やはりおまえは、光の戦士だ。実に美しいよ」
動揺しながらも決して強さを失わないハーブの瞳を、フリスクは冷笑しながら見つめる。
「その気高い魂が闇に堕ちる姿……見せてくれ、私に」
低い声で言い放つと、フリスクはハーブの唇を奪った。ハーブはすぐさま顔を反らすが、香の媚薬のせいで身体に力が入らない。悔しげにフリスクを睨みつけるが、手首を捉えられ床の上に押し付けられる。
「や……め……っ」
「快楽の淵で欲望に喘げ、ハーブ。私がおまえに思い知らせてやろう、欲望の前には誇りなど、なんの役にも立たないということを。ほら……辛くなってきたのだろう?」
「……っ……」
フリスクの唇が首筋に触れる。それだけで、全身がビクッと大きく震える。ハーブは唇を噛み締めた。
それでもなお、右手が剣を握り締める。決して屈したりはしない。渾身の力を込めて剣を振り上げようとしたその時だった。
「ぐ……!!!」
突然、フリスクの目が大きく見開き、動きを止めた。
何事かとハーブが身構える。
「き……さま……っ、うあああああっ!!!!!」
フリスクの悲鳴と共に、フリスクの身体から黒いオーラが放たれた。わけがわからないハーブの目に、黒いオーラに包まれたクールの姿が映る。
「クール……っ!!!」
しかしどうすることも出来ないまま、クールの姿は黒いオーラに包まれて姿を消してしまった。
ハーブは必死で立ち上がろうとするが、力が入らない。息を乱すハーブの肩に、フリスクの手が触れた。
「大丈夫か? ハーブ」
そう言って真剣な目を向けてきたその姿は、明らかにフリスクのものではなかった。
「王……様……?」
ハーブがきょとんと目を丸くさせた。
「そうだ、すまなかったな、ハーブ。ずっと身体を乗っ取られていたが、ようやくあいつを追い払うことが出来た」
完全に先ほどまでとは違った、元の王そのものの姿に、ハーブは安堵しきったように肩の力を抜いた。脳天気に見えてもさすがは一国の王、完全にフリスクに支配されていたわけではなかったらしい。
「時間はかかったが、おかげであらゆる情報を手にすることが出来た。奴はこの城の最上階にいるはずだ」
「クールも!?」
「ああ。奴を倒さねば世界は再び「黒の一族」に支配される」
王は強い口調で言うと立ち上がる。
「いくぞ、ハーブ!」
王は威勢良くハーブに声をかける。
が、ハーブは何故かその場から動こうとしない。
「……どうした?」
「う、動けない……」
床の上に座り込んだまま、ハーブは涙目で王を見上げる。
「……」
「……」
二人はしばし、無言のまま見つめあった。
「私に……どうしろと?」
こめかみに冷や汗を流しつつ、王がハーブに尋ねる。
ハーブは無言のまま、潤んだ瞳で王を見つめた。ますます王の目に動揺の色が走る。
「じ、自分で……出来ないのか?」
頼むから自分で何とかしてくれと思うものの、ハーブはふるふると首を横に振り、哀願するかのような瞳を向けてくる。
どうやら媚薬の効果で本当に動けない上に、かなり限界がきているらしい。王は戸惑いを露に額に汗を流す。どうにかしなければ。しかし自分には后が。いやでもそんなことを言っている場合でもない。一刻でも早くフリスクを倒しに行かねばならないこの時に、何でこんなことで動揺させられねばならないのだ。などと自問自答しつつ、王はハーブの目前に膝をついた。
「て、手で……いいな?」
許せ后!!と心の中で叫びつつ、王はコクコクと頷くハーブの衣服に手をかける。
媚薬のせいで限界まで欲望が膨れあがっているそこに触れられ、ハーブが王の肩をぎゅっと掴んで眉を寄せた。
「あ……ぁ……っ!」
緩やかに上下に扱かれ、こらえきれない快楽に自然と声があがる。
意外にも色香に満ちたその表情に、王は思いがけず自分の鼓動が高鳴るのを感じ、ハーブの身体を抱き上げて寝台の上に投げ出した。
「……っ、何す……っ」
「手だけじゃ満足できないだろう?」
膝裏に手をあてられ足を広げられ、昂ぶりを舌で舐められ、ハーブの身体が大きく震える。
「あ……っ、や……!」
「いやか?」
愛撫を中断して王が尋ねると、ハーブは涙目で首を横に振る。
「……もっ……と……っ」
酷く愛らしいその仕草に、王はますます自制が効かなくなるのを感じながら、口で愛撫を続ける。同じように胸や首筋にも口付ける。媚薬の効果でどこに触れても感じやすくなっているハーブは、頬を高潮させ高い嬌声を放つ。
その身体を反転させ、腰をやや浮かせると、王は寝台脇にあった香油を指に垂らし、ハーブの中にゆっくりと押し込んでいく。ハーブの手がぎゅっとシーツを掴んだ。
「そ……こ……っ」
「ここか?」
「ちが……っ、もっと、奥……っ」
ハーブはもどかしげに訴えるが、さすがに男を相手にしたことはない王の愛撫は実にぎこちなく、ハーブは苦しげに眉を寄せる。
「っ……ちが……、そこ……違うっつの! このド下手くそっ!!!」
いきなり切れるハーブに、王がピキッと額に青筋をたてた。
「……それが人に物を頼む態度かっ!!!」
「いーからとっととしやがれっ!!! 早くイきてーんだよっ!!!」
まるで可愛げのない態度と言葉に、王の瞳にますます怒りの色が増す。
「うるさいこのエロガキ! 少し黙ってろ!!」
「あ……!!!」
いきなり頭をシーツの上に押し付けられ、指よりもずっと太くて硬いものを押し入れられ、ハーブの表情が苦痛に歪んだ。
「い……って……、いてーよっ、バカっ!!」
「黙らないともっと痛くするぞ?」
涙目になるハーブに、しかし王は容赦ない。
「うーー……っ、痛い……痛いってば!! も……やだ……っ!!」
「気持ちよくして欲しいなら、少しはいい子にするんだな」
「ん……っ、……ん……ふぁ……っ!」
ガクガクと腰を揺さぶられ、口の中に指を押し込まれる。ハーブは涙に濡れた瞳で、必死で指に舌を這わせた。
内部への刺激と共に前の昂ぶりを握られ、擦られる。
「あ……だめ……っ、イく……!!」
「まだだ」
「……っ、……早く……っ」
「イかせて下さい、だろ?」
「う……っ……さい……っ、この……クソじじい……っ!!」
「……ここまできて喧嘩売るか? 普通」
「うー……~~~っ!!!」
達する直前でいきなり引き抜かれ、愛撫の手も止められ、ハーブの目に涙が滲む。王はハーブの身体を仰向けにすると、足を開いて限界寸前の自身に指を這わせる。ビクビクとハーブの身体が震えた。
「イかせて下さい、は?」
「うっせークソじじい!! 早くイかせろーっ!!!」
涙目で大声を張り上げるハーブに、王は苦笑した。強情なのもここまでくるともはや呆れるしかない。
王は小さく息をついてハーブの頬に手を寄せると、唇に唇を近づける。しかしあとわずかで触れようとしたその時、ハーブが思い切り顔を逸らした。途端にカチンときて、ハーブの顔を両手でがっちりと挟み込み、再び唇を近づける。しかしハーブは絶対に嫌だとばかりに力いっぱい首を振った。
「ここまでしておいてキスは嫌って、どーいう神経だおまえは……っ」
「俺の唇はクールだけのもんだっ……!!!」
必死で抵抗しあうその姿は、もはや愛し合っているのか張り合っているのか喧嘩してるだけなのかよく分からない。
「ならここで終わりにしてやろーか……?」
「ここでやめたらブッ殺す!!!」
「だったら少しは大人しく抱かれてろっ!!」
いいかげんブチ切れたと言わんばかりに、王は乱暴にハーブの足を広げさせると、再び自身を一気に埋め込んだ。
「んぁ……っ!」
「イかせて下さい、は?」
「い……かげん、しつけぇよ……っ」
「絶対、言わす」
「死んでも言わねー……っ」
「ほう……」
だったら仕方ないと、王はハーブの自身を、達せない程度にやんわりと愛撫する。ハーブが苦しげに眉を寄せた。
「これでも言わないか?」
「言……わねー……っ!!」
「本気でイかせないぞ?」
「言わねぇ……っ!!!」
ハーブはあくまで強固に言い張るが、やはり身体は限界を超えているのか、ハーブの目からぼろぼろと涙がこぼれる。それでもなお我を貫き通すハーブに、さすがに王も呆れ果て、根負けせざるをえなかった。
「あー……分かった。俺が悪かったからもう泣くな」
さすがに可哀想になり、そっと頭を撫でようとするが、振り払われて思い切り睨みつけられる。大人げなくムキになってやりすぎたかと思い苦笑するものの、ハーブは怒りを込めた気の強い瞳の色を変えない。 まるで威嚇してくる野生動物だ。
「今、めいっぱい気持ちよくしてやるから」
「……んっ……」
香油をハーブの自身に垂らし、潤ったそこを手で扱きながら、ゆっくりと腰をすすめる。
前と後ろを激しく同時に刺激され、ハーブの手がシーツを掴み、口元から唾液が顎を伝う。
「あ……ぁ……っ、ん……や……っ!」
「気持ちいいだろ?」
「ん……いい……っ! あ……も……だめ……っ、イくぅ……っ!!」
激しく揺さぶられ、ハーブが王の肩にぎゅっとしがみつく。
快楽に呑み込まれ、感じるままに声をあげながら、大きく身体を震わせたハーブの自身から絶頂の証が解き放たれた。
ハァハァと息を整えながら、王とハーブは額に汗を流し、互いを見つめる。
「つか……今、こんなことしてる場合じゃねーよな……」
「……まったくだ」
媚薬のせいで思わず暴走してしまったものの、正気に戻った途端に激しい自己嫌悪に襲われる二人であった。
「ハーブさん!!」
バタン!!!と派手な音をたてて扉が開き、ティノとチェルシーとガルボが姿を現す。
つくづく行為を終えた後で良かったなどと思いながら、ハーブは王が正気に戻ったことを二人に告げた。
「フリスクの本体は、クールの額の飾りに埋め込まれた赤い宝石だ。それを壊せば、フリスクは完全に消滅するだろう」
「……ということは、クールを倒さなきゃフリスクも倒せないってこと?」
神妙な顔つきでチェルシーが声をあげた。
ハーブの目に苦悩の色が宿る。
「今、クールは完全にフリスクによって操られている。彼が自分の心を取り戻せるかどうかは……私にも分からない」
「そんな……」
ティノもまたショックを隠しきれない様子で、ハーブに目を向けた。
しかしハーブは意思の強い瞳をして、剣を片手に立ち上がる。
「行くぞ」
そして低い声で言い放つと、クールの待つ最上階へ向かうため足を進めた。
「ハーブさん……!!! まさかクールさんを殺すつもりですか!?」
ティノが慌てて後を追い、尋ねるが、ハーブは応えないままに歩みを進める。ティノが困惑に満ちた表情をする。チェルシーもまた、苦悩に満ちた表情で二人の後を追った。そんなチェルシーの肩をポンと叩き、王が優しい瞳を向ける。
「お父様……」
不安げな瞳を隠せないチェルシーに、王はただ優しく微笑んだ。
あの時と、同じだ。
一歩一歩近づいていくたびに、鼓動の音が高鳴る。
今、おまえは何を想っている?
何を願っている?
何を求めている?
まるで自分自身に問いかけるように頭の中で繰り返しながら、ハーブは神妙な面持ちで、目の前の巨大な扉に手をかけた。
ギィ……と音をたてて、重い扉が開いていく。
扉の向こうの大広間の中央に位置する王座に、待ち受けていたかのように、クールの姿があった。しかしその瞳には少しの生気もない。完全に自我を失った、かつての「魔王」と同じその姿を、ハーブはまっすぐに見据えた。
「クール……」
ハーブが静かに発した声に反応したかのように、クールが立ち上がった。そしてゆっくりと、ハーブに歩み寄る。
色の無い瞳が、ハーブを見つめたその時だった。
すっとクールの右手があがり、その手の平から強力な魔法が放たれる。ハーブの身体が一瞬にして吹き飛ばされ、床の上に転がされた。
「ハーブさん!!」
ティノがすかさず駆け寄る。ハーブは苦痛に眉を寄せながらも立ち上がった。
「おまえらは下がってろ。俺が必ず、あいつを倒す」
ハーブは強い口調でそう言うと、剣を構え、クールに向かって駆け出した。
「ハーブさん……っ!!!」
ティノが声をあげた瞬間、ハーブの剣がクールめがけて振り下ろされる。しかしクールは魔法のバリアでハーブの剣を阻止する。それでもハーブは諦めない。懇親の力を込め、バリアを破ろうとする。
「クール……っ、目を覚ませ……!! 俺の声が聴こえるだろう!?」
強力なバリアに阻まれながらも、ハーブは必死で目の前のクールにむかって叫んだ。しかしクールの目の色は少しも変わらない。
『無駄だ、ハーブ。おまえの声など、届きはしまいよ』
クールの口から声が放たれた。しかしそれはクールのものではなく、明らかに黒の魔法使いフリスクの声。
「黙れフリスク!!」
『クールはおまえを憎んでいる。そう……ずっと、憎んでいたのさ。殺してやりたいほどにな』
刹那、強力な魔法が放たれ、ハーブの身体が吹き飛ばされた。
床の上に転がるハーブに、クールが薄く笑みを浮かべたまま歩み寄る。
『死ね、我が一族の敵、「光の勇者」の血をひく者』
クールが右手をかざす。
突然、クールの目が大きく見開かれた。
ハーブが目を見張ったと同時に、クールが苦痛に満ちた表情をする。
「クール……!!」
すかさずハーブが立ち上がり、クールに駆け寄った。その両手首を掴み、何度も呼びかける。
「ハー……ブ……」
クールの瞳が苦悩に満ちた様子でハーブを見つめた。必死で自我を取り戻そうとしているのだろう。激しく首を横に振り、涙を溜めた瞳で必死に何かをハーブに訴えようとしている。
「ち……がう……、憎んで……など……・」
「クール……っ」
必死でもがき苦しむクールを、ハーブは強く抱きしめた。
「分かってる。大丈夫だ……今、俺が助けてやるから……!!」
「あ……ぁ……っ!!!」
突如、クールの額の宝石が光を放つ。クールを包み込む魔法のバリアに、ハーブの身体がはじかれ、また宙に投げ出された。
黒いオーラがクールの全身を包み込む。
クールの瞳が紫色に変化し、凄まじい魔力を放った。
咄嗟に王がハーブの目前に立ち、まともに魔法をくらった王がハーブの前に倒れる。
「王様……っ!!」
「ハーブ……あの額の宝石を壊せ……っ。おまえなら、必ずあいつを救ってやれる……!!」
王の真剣な言葉に、ハーブは頷き、立ち上がった。
そしてまっすぐにクールにむかって歩を進め、剣を振り上げたと同時に、クールにむかって駆け出した。
途端、また強力な魔法に阻まれる。しかしハーブは足を踏ん張り、強固な意志でもって前に進む。ハーブの額や頬に幾筋もの裂傷が加わる。それでも決して怯まず、ハーブは懇親の力を込めてクールにむかって剣を振り上げた。
ハーブの剣が、クールの額の飾りに直撃する。
ビシッと音をたて、クールの額の宝石が割れ、眩いほどの光が放たれた。
『お……おのれ……うああああああっ!!!!!』
刹那、クールの身体から黒いオーラが放たれ、凄まじい悲鳴と共に螺旋を描き、やがて完全に消滅していった。
ハーブの身体が、ガクリと床に崩れる。すぐにティノが駆け寄った。
「ハーブさん……!!」
「クールは……っ」
全身に致命傷に近い裂傷を負いながらも、ハーブは必死で立ち上がろうとする。そんなハーブの目に、同じように床に倒れ込んだクールが、静かに立ち上がった。しかしその瞳に、やはり正気の色は無い。絶望にも似た想いでハーブはクールに歩み寄るが、次の瞬間、クールの魔法によってはじき飛ばされた。
「駄目だ……完全に自我を失っている……!!」
王が苦悩に満ちた声をあげる。
「このままでは力が暴走して、全滅だ」
「そんな……!!」
「チェルシー、おまえの「癒しの力」が役に立つはずだ」
「僕の力が……?」
「ああ。おまえの「癒しの力」を剣に込め、クールの心臓に突き立てるんだ。そうすれば、クールの失った自我を取り戻せるかもしれない。ただし……失敗する可能性も高いが」
「それって……」
失敗すれば、クールの命は無い。その事実に、チェルシーが唇を噛み締める。
「だが迷っている暇は無い。このまま全滅するか、お前達の力に賭けるか、方法は二つしかないのだ」
王の言葉に、それぞれの表情が苦悩に満ちる。
しかし迷わず、ハーブがチェルシーにむかって声をあげた。
「チェルシー、頼む。おまえの力、この剣に込めてくれ」
「ハーブさん……!! そんな身体じゃ無茶です……!!!」
おそらくはハーブの身体も、先ほどの戦いで限界寸前にきている。このままクールにむかっていき、一撃でも魔法を受けたら絶命は間違いないだろう。ティノが声を荒げ止めようとするが、ハーブは変わらない目をチェルシーに向ける。
チェルシーはハーブに歩み寄り、剣を握り締めた。そっと目を閉じ、呪文を唱える。白いオーラが剣を包み込んだ。
ふと、その剣をティノが握り締める。
「俺がやります」
そして意思の強い瞳で、ティノがハーブにむかって言った。
しかしハーブは首を横に振る。
「ハーブさん……!!」
「これは俺の役目だ。あいつは必ず、俺が止めてみせる。おまえらは今すぐここから逃げろ」
「嫌です」
「ティノ、頼むから聞き分けてくれ」
「嫌です!!」
きっぱりした口調でそう言うと、ティノはハーブの剣を握り締める。
「ティノ、いいかげんに……っ!!」
あまりの聞き分けの無さに、ハーブが怒りの声をあげたその時、突然、ティノが拳を振り上げた。拳が
ハーブの頬に直撃し、ハーブが床の上に倒れ込んだ。
「どうして信じてくれないんですか!!!」
ティノもまた、こらえきれない怒りを露に、声を荒げてハーブを見つめる。
「なんのために、俺達がいるんですか!? 今まで何のために、一緒に戦ってきたんですか!? ここで俺たちだけ助かったって、ハーブさんとクールさんがいなくなったら……っ、それなのに……どうして……分かってくれないんですか……!!??」
ティノの瞳から涙がこぼれる。悔しくて、悲しくて、仕方ないように。
ハーブが口元に滲んだ血を拭い、苦悩に満ちた表情をする。
ふと、チェルシーの指先がハーブの口元に触れた。白い光が、ハーブの傷を癒していく。
「大丈夫だよ、クールは絶対に死なせない。だから僕たちを信じて。だって僕たち、二人のおかげで、ここまで強くなれたんだよ?」
チェルシーはそう言って穏やかに微笑むと、立ち上がり、ティノに強い眼差しをむけた。
「いくよ、ティノ」
ティノもまた、強い眼差しで頷く。二人はクールに目を向けた。
「ティノ、チェルシー!」
ハーブが声をあげた。二人が振り返る。
「あいつを……頼む」
ハーブの言葉に、二人は静かに笑って頷いた。
クールにむかって、ティノが剣をかざす。チェルシーが再度呪文を唱え、白い光が剣を包み込んだ瞬間、ティノがクールにむかって駆け出した。
暴走するクールの放つ強力な魔法の渦に、ティノは迷わず飛び込んでいく。
凄まじい魔法の力が、ティノの全身を切り裂く。しかしティノは意思の強い瞳で足を踏ん張り、クールに向かって確実に歩を進める。
「ティノ!!!!」
ハーブがこらえきれず立ち上がり、助けにむかおうとしたその時。
「う……あああああっ!!!!!」
ティノの叫びと共に、癒しのオーラに包まれた剣がクールの胸を貫いた。
刹那、白い光が部屋中に放たれ、強力な魔法の渦が徐々に形を無くしていく。
白い光もまた徐々に輝きを無くし、辺りが静寂に包まれた。
目を開いた四人の前で、クールが床の上に倒れ込む。咄嗟にティノがその身体を支えた。ハーブがすぐさま駆け寄る。
「大丈夫……生きてます」
ボロボロになったティノが、優しい笑みを浮かべ、ガクリとその場に倒れ込んだ。
「目を覚ましたと同時に、砂で出来た身体は崩れ、元の小さな身体に戻るはずだ」
「でも、どうしたら目を覚ますのかな?」
全てを終え、「王の間」の寝台に身体を横たえさせたまま一向に目を覚ます気配のないクールを前に、チェルシーが不安げに王に尋ねた。
「やっぱりここは、王子様のキスがセオリーじゃないか?」
どこかからかう口調で王が言った。
なるほどとチェルシーが手を叩き、いまいち王の言葉の意味を解っていないティノとガルボの背を押し、王と共に部屋を出て行く。
部屋に二人きり、残されたハーブの瞳が、切なげにクールを見つめた。
眠るクールの頬に、そっと手を触れる。まだわずかに温かみのある、等身大のクールの身体。ハーブは寝台の端に腰掛け、ハーブの前髪をかき上げ、愛しげにその姿を見つめる。
ずっと、ずっと、触れたくて触れたくて、夢に見るほどに焦がれていたクールの身体が、目の前にある。
愛してるよ。
何度も心の中で囁きながら、ハーブはそっと、クールの頬を両手で包み込み、その唇に唇を寄せた。静かに唇が触れた瞬間、クールの身体がピクリと小さく反応を示した。
閉じられていた瞳が、ゆっくりと開いていく。
「ハー……ブ……?」
クールの瞳が、目の前のハーブの瞳を、覚醒しきっていない瞳で不思議そうに見つめる。
「どう……して……」
どうしてこんな風に触れられるのだと、酷くあどけない瞳で、クールがハーブの頬に手を寄せる。
ハーブは優しく微笑んで、再び唇を重ね合わせ、触れるだけのキスの後、頬にも、額にも、唇を寄せた。
「全部……夢だ」
触れながら、優しい眼差しでそっと囁く。
「だからもう少し……寝てろ」
何度も降り注がれる優しいキスに、クールが静かに微笑む。酷く幸福そうなその姿に、ハーブもまた愛しくてたまらないように目を細め、何度も優しい抱擁を交わす。
そう、これは夢だ。
ほんの一瞬の、儚く消えるうたかたの夢。
だから……今は……。
今だけは……。
クールの瞳がゆっくりと閉じられる。
やがてその姿が砂となり、サラリと音をたてて崩れ落ちる。
最後の瞬間までクールを抱きしめていたハーブの手の上に、光に包まれた小さなクールの姿が浮かび上がった。
安らかに眠るクールを、ハーブはそっと手の平で包み込み抱き上げ、穏やかに微笑んだ。
共に帰るかと尋ねられ、チェルシーは静かに首を横に振り、王に真剣な瞳を向けた。
「もう少し、旅を続けさせて下さい。僕、もっと強くなりたいんだ。国のみんなを……守れるように」
強い意志をもった瞳を向けられ、王は穏やかな笑みを浮かべた。
「ああ、待っているよ、チェルシー。もっと強くなって、帰っておいで。いずれ、我が国の王となるために」
「お父様……」
「おまえが帰ってきたら、国民に本当の事を告げるつもりだ。今のおまえならば、みな納得してくれるだろう」
王は優しくそう言うと、ポンとチェルシーの肩を叩き、それからティノとハーブとクールの三人に顔を向けた。
「みんな、王子を頼んだぞ」
王の言葉に、三人は頷いた。
「いい仲間に巡り合えて良かったな、チェルシー」
「はい!!」
そうして四人は王と従者ガルボに別れを告げ、また新たな旅を目前に、それぞれを見つめ、笑い合った。
しかし。
「俺の苦労は何だったんだ~~~~っ!!!!」
またしても、ハーブの大絶叫がラスボスの間に響く。
「クール……いいかげん、思い出してもいいんじゃない?」
「確かここだと思ったんだが……」
「なんでいっつも肝心なとこで天然炸裂なんですか……っ」
ふるふるとティノが肩を震わせる。
結局、この日もクールの本体は見つからないまま、四人、もといハーブのみが疲れ果てた様子で宿屋に足を向ける。
「いつになったら見つけられるんでしょうね」
「まあ、いいじゃねーか、のんびり行こうぜ」
宿屋までの道のりを歩きながら、ハーブが能天気に口を開いた。ティノが目を丸くする。
「どうしたんですか? あんなに早くクールさんの身体取り戻したがってたのに」
「いや……、焦ってもしゃーねーかなって」
ハーブはやけにスッキリとした顔つきで、飄々とそんな言葉を言い放った。
はっきりとは分からないけれど、以前とはどこか変わったハーブの様子を見ながら、確かにそれで良いのかもしれないとティノが思ったその時。
「ちょっとそこのお兄さん!」
不意に背後から声をかけられ、ハーブとティノが同時に振り返ると、そこには強烈なナイスバディの美女が一人立っていた。
「はい、何でしょう?」
途端にハーブがおもいきり造り顔でもって、美女の手をがしっと握り締める。ティノがズルッと前のめりに崩れたその瞬間、ハーブの身体に電撃魔法が放たれた。
「いくぞ、ティノ、チェルシー」
黒焦げと化したハーブをまるで無視して、スタスタとクールが歩いていく。
ティノとチェルシーは苦笑しながらクールの後を追った。
「なんか僕、クールがヒネた理由が分かった気がする」
チェルシーが小さくため息をつきながら呟いた。
「昔からああなんですか? ハーブさんって」
ティノもまた、呆れ返った声でもってクールに尋ねた。
「そうだ……あいつは昔から、ああいう奴だった……っ」
クールがピタリと足を止め、怒りにふるふると肩を震わせる。
「クール、俺、クールが一番好きだよ」
「うん、僕もハーブが大好き!!」
ぎゅっと手を握り合う二人の前に、村一番の美少女が駆け寄った。
「ハーブくん、わたしと遊ぼっ」
少女がハーブの手を握り連れ去ろうとするが、クールがハーブのもう片方の手を引っ張った。
「だめっ、ハーブは僕と遊ぶの!」
「いっつもミントくんばかりズルいよ~っ!」
「二人とも喧嘩するなって。みんなで遊べばいいじゃん」
宥めるハーブに、クールと少女はキッと強い眼差しを向けた。
「この前、わたしのことが一番好きって言ってくれたよね?ハーブくん」
「え……」
「本当なの? ハーブ」
睨みつけるクールに、ハーブは冷や汗を流しつつ応えた。
「あ……いや、まあ……言ったっけかなあ……?」
誤魔化すように笑うハーブを前に、クールの拳がわなわなと震え、次の瞬間。
「ハーブの嘘つきぃぃぃぃっ!!!!!」
涙目で訴えるハーブの手から雷魔法が放たれ、ハーブの脳天に直撃したのであった。
「なるほど、それで信用できなくなったと……」
クールの昔語りを耳に、ティノが呆れ返ったように頭を抱えながら頷いた。
「そのくせ、私のする事にはいちいちあれはダメこれはダメと口やかましくて、どこに行くにも何をするにもきっちりチェックしてくる粘着ぶりに、あまりの鬱陶しさに何度本気で殺してやろうと思ったことか……!!」
「ちょっと待てクールっ!!!」
回復するなり後を追ってきたハーブが、クールの言葉に怒り半分に口を挟んだ。
「俺にだって言い分があるぞっ!! 俺がいちいち口やかましいのは、おまえが時々、俺の予想の範囲内を超える無茶ばっかするからじゃねーかっ!!!(※呪っちゃったりとか)」
「うるさいっ、この優柔不断の人外魔境の女たらし!! もうおまえなど二度と信用せん!!」
「だったらもったいぶってねーで、さっさと身体取り戻してヤらせろよっ!! グラビア雑誌だけじゃ限界があるわっ!!!(※この世界にもエロ本はあります)」
「いつ誰がおまえに犯らせると言った? 身体を取り戻した暁には、私がおまえを犯るに決まってるだろうが……っ!!」
「誰が犯られっかよ……っ!!! 今に見てろよっ、俺のハイパー絶倫○○○で、あんあん喘がせてやる……っ!!!」
「それはこっちの台詞だ……!!!」
凄まじい気迫のこもった、あまりにバカバカしい言い合いに、ティノとチェルシーが完全に呆れ顔で二人から離れ、さっさとその場を歩き出した。
「もしかしてあの二人って、物凄くバカ?」
「もしかしなくてもそうなんだろ」
とりあえず、一生やってろ。
そう心の中で叫びながら、今日も明日も明後日も、四人の旅は続くのでありました。
|
|