指先

   
 指先がそっと頬に触れて。
 首筋に降りて、胸を伝い、腰をなぞり太腿に触れ、自分を撫でるその感覚がどうしようもなく気持ち良かったから、触れたくてたまらなくなった。
 
 
「忍、手相って見たことある?」
 光流の声に、忍は本を手に持ったまま、ベッド脇に座る光流を振り返った。
「生命線って、どれだっけ?」
 光流が左手を見つめながらそう言って、忍に大きな瞳を向けた。
 忍は椅子から降りて、光流の隣に膝をつき、流れるような仕草で光流の左手をとる。
「ここ」
 忍の綺麗な形をした爪と指先が、光流の手の平をゆっくりとなぞる。
 伏せられた長い睫毛が目の前で揺れる。さらりとした細い髪が、ほんの少し自分の髪に触れる。
「頭脳線。結婚線。感情線……神秘十字線」
「なに、それ?」
「……同じところにあるな」
「あ、ホントだ。で、これって何の線?」
「おまえ、金運無さすぎだぞ」
「まじ!?」
 突然発された光流の大声に、忍の肩がほんの数ミリ、ビクッと揺れた。
 
 
 白い天井にかざした手の平にいくつも伝う肌の線を、あの指先の感覚を思い出しながら右手でなぞる。
「生命線……感情線……」
「なんだおまえ、占いなんか信じる質だったか?」
「一応寺の息子だから、神様は信じてるよ。……あ、これ、なんだっけ……」
「神秘十字線」
「なに? 手相詳しいの?」
「詳しいってほどじゃないけどな。俺は占いなんて信じちゃいないし」
「そりゃ俺だって、完全に信じてるわけじゃねーけど。……なあ、これって、何の線?」
 あどけない瞳で尋ねられ、一弘はくしゃりと光流の髪を撫でた。
 
「神様に守られている証だよ」