思った以上に魅惑的だと感じたのが、間違いだったのだろうか。
「は……っぁ……あぁ……!」
「声を出すなと言っただろう?」
「だ……って……気持ちい……」
言い訳がましい口を片手で塞いで、いっそう激しく身体を揺さぶる。
閉じた瞳に涙が滲んで、苦しげに眉が動いてこめかみに汗が流れる。同時に快楽の証を解き放ち、何気なく唇を唇に寄せたら、フイと顔を背けられた。
どんな行為も許すくせに、唇へのキスだけは、初めから頑なに受け付けない。まるで純潔な少女のように。
長い睫とガラス玉のような淡い色の瞳に、緩やかなウェーブのかかった茶色い髪。おそらくは異国の血が混じっているであろうよく整った美しい顔が、快楽の淵にあるこの時だけは、普段のふざけた様子からは想像もつかないような大人びた色香を漂わせる。
光流のこんな顔を見れる相手は、自分の他には誰もいない。
今、しばらくは。
自分が優越感に浸りたい生き物だということはとうの昔に自覚しているから、いまさらそんな自分に嫌悪など何もなく。増して罪悪感を感じるくらいなら、とうにこんな関係はやめている。
光流を抱くのは、ただ、抱きしめてやりたいと思っただけだ。かつての自分のように、誰にも頼れず、誰にも甘えられず、誰の前でも泣けない彼を、抱きしめてやることで過去の自分を癒しているだけなのだろう。
あとはそう、この綺麗な顔が欲望に喘ぐ姿を見てみたいという好奇心もあったかもしれない。
全てただの自己満足だ。けれどそれで良い。それ以上であってはならない。
互いに、何よりも守りたいものがあるのだから。
「いいかげん教室に戻れよ」
「授業、だりぃ」
うんざりしたようにそう言って、光流はのろのろと身体を起こし、白いシャツを身に纏う。ボタンをしめるのすら億劫にしているから、一弘は仕方ないというようにネクタイを手に持ち、光流の顎を右手でクイと反らせて、タイを首にかけ結んでやる。
「懐かしい感覚がする」
「結び方は、誰に教わった?」
「親父……だったかな、確か」
記憶をたぐりよせ、それから光流は何か閃いたように、もともと大きな瞳を更に大きくした。
「明日、あいつに結んでもらおう」
嬉しそうな笑顔と澄んだ瞳が、一弘の目に映った。