卒業証書を片手に、光流は忍に穏やかな視線を向ける。
在校生と卒業生の賑やかな声が遠くに響く。
どうしても二人きりになりたくて、人気の無い裏庭に足を向けた。
桜の花が少しずつ開花しはじめている。きっと四月には満開に咲き誇り、真新しい制服に身を包んだ新入生を招き入れるのだろう。
「……楽しかったな」
ふと光流が足を止め、桜の木を見上げながら何気なく呟いた。
「ああ」
忍が柔らかく微笑む。
本当に、楽しかった。
三年間の思い出を噛み締め、二人は言葉もなく見つめ合う。
ずいぶんと長い静寂の後、光流がそっと、忍の唇に自分の唇を寄せた。
静かに触れると、忍がわずかに肩を震わせて。
「……好きだよ」
同じ言葉は返ってこなかったけれど、目の前にある切なげな瞳がただ愛しくて。
もしかしたらずっと、不安にばかりさせていたのかもしれないと思った。
もっと早く、言葉にすれば良かった。
そうしたら、きっと。
「忍~~~っ!!!」
突然、がばっと光流が忍に抱きつき、忍が驚愕を隠せないように目を見開く。
「なんなんだ急に……」
呆れたような声。けれど光流は抱きしめた腕に更に力を込める。忍が迷惑そうに身を捩った。
「好きだっ!!」
「……分かったから離せ」
忍はあくまで冷徹にそう言い放つと、さっさと先に歩いていく。
つれない奴。がっくりと肩を落とし、けれど気を取り直して、光流はその場から駆け出して背後から忍の首に腕を回し無邪気に抱きついた。
「忍ーーーっ」
何度好きだって言っても、ぎゅっと抱きしめてもキスをしても、忍はやっぱり無表情のままで。
いつになったら、同じ言葉が聞けるのだろう。なんだかまだまだ、時間がかかりそうな気がする。
だけど。
(時間はいっぱいあるんだし)
ゆっくり、焦らず、頑張ってみようか。
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