桜咲く、季節。
「池田」
「ん?」
「肩に……」
薄紅色の花びらを指で摘んで、忍が柔らかく微笑んだ、あの日を思い出す。
「さすがに初々しいよな、一年生って」
真新しいブレザーに身を包んで歩く新入生達を窓から眺めながら、光流が穏やかな笑顔で言った。
「おまえは入学当初から図太かったけどな」
「何だよ、それ。どーせ可愛げねーよ」
膨れっ面をする光流に、一弘はからかうような視線を向ける。
「ずいぶんと可愛い新入生が入学してきて、心配してたんだけどな」
「何を?」
「こんな男だらけの学校で、いつか襲われるんじゃないかって」
一弘はそう言うと、光流の脇の下に手を挟み軽々と抱き上げ、机の上に光流を座らせた。
「それ、あんたが言う台詞?」
「俺は男になんか興味ない。おまえだってそうだろう?」
「そりゃ……まあ……」
それにしたって、言ってることとやってることが矛盾しすぎている。けれど敢えてそれ以上尋ねようという気にはなれず、与えられる愛撫に素直に身を委ねる。最も感じる部分に這う舌の艶かしい感覚に、光流は目を閉じて一弘の柔らかい髪を掴む。
「……そこ……も……と……っ」
もっと強い刺激が欲しくて、ねだるように甘い声をあげる。
しかし焦らすようなもどかしい愛撫。早くと目に涙を滲ませても、焦らす舌の動きは変わらない。
「も……早く……っ」
「イかせて欲しいか?」
「ん……イかせて……っ」
濡れた瞳で懇願すると、一弘は張り詰めた光流の自身を右手で包み込み、緩やかに動きをつける。光流の手が一弘の肩を掴み、白衣に顔を埋めて乱れた声をあげる。一弘が光流の白い首筋に舌を這わせた。
「あ……イく……ぅ……っ!」
大きく光流の身体が震えて、一弘の手に白濁が放たれた。
乱れた息と潤んだ瞳。ずいぶんと、大人の顔に近づいてきたな。まだあどけなかった2年前の顔を思い出しながら、一弘は光流の唇に指を這わせた。
一瞬だけでも、唇で触れてみたいと思った。
満開の桜の木の下、二人肩を並べて歩く、三年目の春。
「桜の木って、すげーよな。ちょっと怖いくらい」
上を向いたまま歩く光流が、道の小石につまづいてほんの少しよろめいた。
「怖い?」
忍が立ち止まって尋ねる。
「綺麗すぎて、怖くねぇ?」
光流がそう言うと、忍はいつもの落ち着いた表情のまま、桜の木を見上げた。
刹那、強い風が吹き、忍の髪がサラリとなびいた。
「綺麗、だよな」
呟くように言葉を発した光流に、忍がまっすぐに視線を向ける。
「綺麗だ……」
もう一度同じ言葉を口にして、光流もまた、まっすぐに忍の瞳を見つめた。
一瞬のような、ずいぶんと長いような時間の後、忍がフイと視線を逸らし、歩き出す。
「忍」
光流の声に、忍がゆっくりと振り返った。
「肩に……」
薄紅色の花びら。 そっと摘むと、忍が緩やかに微笑んだ。
「おまえもついてるぞ」
忍の指が、光流の髪にそっと触れた。
咄嗟に、光流の手が忍の手首を捉える。
「……どうした?」
まっすぐな、曇りのない視線。
光流はそっと、掴んでいた忍の手首を離し、静かに微笑んだ。
「花びら、ついてる?」
「ああ」
「とって」
「……ほら」
「さんきゅ」
満開の桜の下、二人はまたゆっくりと歩き出した。