雨の日は嫌いだった。
なんだかじめじめしているし、濡れるのは気持ち悪いし、少しも外で遊べないし。
そうやって気分が落ち込むと、同時に身体も酷くダルくなる。
「ん……」
沈んでいく。
自分の中に、深く。深く。
「……っ……あ……あ!」
シーツの上に手をついて、目の前の顔を見下ろすと、腰を掴まれ突き上げられる。
同じように、激しく腰を使い擦り立てる。
もう何がどうなっても良いような感覚に翻弄されながら、達する瞬間に睨みつけるように瞳を見据えた。
自分と同じ、穢れた大人の瞳を。
生徒会の仕事があるから遅くなると言うので、先に寮に帰ってきた光流は、少しの間窓の外を眺めてから、帰ってきたばかりの部屋をまたすぐに出て行った。
濃紺の傘を開き、土砂降りの雨の中を早足で歩く。
スニーカーがパシャッと音をたてて水を飛ばし、制服のズボンに跳ねて染みを滲ませた。
帰りたいけど、濡れるのはどうしても嫌で。
けれどいくら待ってもいっこうに止まない雨に苛立ちばかりを感じながら、校舎の入り口で泣きそうになっていた自分の前に、傘を持って歩み寄ってきた母親の優しい笑顔。
嬉しくて。ただ嬉しくて、ぎゅっと手を繋いで二人で歩いた雨の日の記憶。
水溜りにわざと足を突っ込んで遊んでいたら、ダメだよって叱られて、またぎゅっと手を握り締められた。
今日が雨で良かったと、初めて思えた。
「忍」
「まだ残ってたのか?」
「うん。帰ろうぜ」
「傘がないから待ってたんだろう?」
微笑しながらそう言って、忍はグレーの傘を開いた。
光流は「そう」と笑って、同じ傘の下に身を寄せる。
そっと肩が触れて、雨の音が近くなる。
「鬱陶しいな、雨」
「そうか?」
「だって良いことねーじゃん」
「良いことって?」
尋ねられ、光流は応えに詰まって、ピタリと足を止めた。同時に忍の足も止まる。
「やっぱり……好きかも」
忍の瞳をまっすぐに見つめながら、光流は言った。
「ああ……俺も、雨は嫌いじゃない」
同じように光流の瞳を見つめながら、忍が言う。
なんて綺麗な瞳だろう。
ずっと、見つめていたいくらいに。
「雨、好きなんだ?」
「好きだよ」
何気なくそう言って、二人はまた同時に歩き出した。
(好きだよ)
何度も何度も、忍の声が頭の奥で心地良く繰り返される。
今日が雨で良かった。