「早く帰ろうってー!!」
スタスタと歩いて行く忍に、光流は抗議の声をあげながらも付いていく。
本屋に寄った後も、次は文具店だの、次はコンビニだのと、なかなか寮に帰ろうとしない。明らかにわざとやっていると見られる忍の行動に、光流はいいかげんにしろと腹をたてる。
「これだけ歩いたら少しは暖まっただろう?」
飄々と言う忍に、光流はムッと口をとがらせた。
「俺はおめーと違って体温調節できねーんだよっ」
一緒にするなと声を荒げるが、忍はきょとんとした顔つきの後、小さく息をついた。
「仕方ないな」
呆れたように言いながら、自分のつけていたマフラーを外す。
次の瞬間、フワリと、首に暖かい感触が走った。
「帰るぞ」
忍が光流に背を向けて歩き出す。
光流は首にかけられたマフラーをぎゅっと握り締め、柔らかい笑みを浮かべた。
(ちゃんと、体温あるじゃん)
上質なカシミアのマフラーに残る、暖かい、人の温もり。
「忍!」
呼ばれた声に振り返った忍は、唐突に目の前に飛んできた手袋を反射的に受け止める。
「お返し」
少しだけ触れた指先が、ずいぶん冷たかったから。
「あ、俺、ちょっとCDショップ寄るな」
突然、帰りたくなくなった。もう少しだけ、この温もりを感じていたかったからかもしれない。
またチラチラと、雪が降り始めた。