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   マフラー

   
 朝から雪がチラチラと降っては止み、降っては止み、積もりそうで積もらない、そんな寒い日の午後。
「光流、いつまで寝てる気だ?」
 突然かけ布団を剥がされて、光流は咄嗟に布団を奪い返した。
「寒ぃっ! 外出たくねぇ!」
 そう言って、また布団にくるまるが、即効で剥ぎ取られる。
「教室に戻れ」
「嫌」
 膨れっ面をする光流に、一弘は顔を近づけて真顔で言う。
「戻らないとキスするぞ」
「……すれば」
 素っ気無い口調で光流が言った。
 一弘の指が光流の顎を捉える。触れるまで数センチの距離に唇同士が近づいた瞬間、光流はガバッと上半身を起こした。
「しっかりお勉強して来いよ」 
 ニヤリと笑って言う一弘を睨みつけ、光流は実に気だるい様子で保健室を出て行った。


 放課後、外に出ると地面に雪が数センチ降り積もっていて。
 既に何度も踏みつけられた雪の上を歩きながら、光流は寒くてたまらないように手袋をした手を口元に当てた。
「おまえホントに寒がりだな」
 涼しい顔で忍が言う。
「うー……早く帰ってコタツ入りてぇっ」
「その前に本屋に寄るぞ」
「早く帰ろうってー!!」
 スタスタと歩いて行く忍に、光流は抗議の声をあげながらも付いていく。

 本屋に寄った後も、次は文具店だの、次はコンビニだのと、なかなか寮に帰ろうとしない。明らかにわざとやっていると見られる忍の行動に、光流はいいかげんにしろと腹をたてる。
「これだけ歩いたら少しは暖まっただろう?」
 飄々と言う忍に、光流はムッと口をとがらせた。
「俺はおめーと違って体温調節できねーんだよっ」
 一緒にするなと声を荒げるが、忍はきょとんとした顔つきの後、小さく息をついた。
「仕方ないな」
 呆れたように言いながら、自分のつけていたマフラーを外す。
 次の瞬間、フワリと、首に暖かい感触が走った。
「帰るぞ」
 忍が光流に背を向けて歩き出す。

 光流は首にかけられたマフラーをぎゅっと握り締め、柔らかい笑みを浮かべた。

(ちゃんと、体温あるじゃん)

 上質なカシミアのマフラーに残る、暖かい、人の温もり。

 「忍!」 

 呼ばれた声に振り返った忍は、唐突に目の前に飛んできた手袋を反射的に受け止める。

「お返し」

 少しだけ触れた指先が、ずいぶん冷たかったから。

「あ、俺、ちょっとCDショップ寄るな」

 突然、帰りたくなくなった。もう少しだけ、この温もりを感じていたかったからかもしれない。

 またチラチラと、雪が降り始めた。