告白


「もう行くのか?」
「ああ」
「駅まで送ってくよ」
「……」
「話、したいんだ。だから……」


 吐く息が白い。
 冬休みが始まり、今日から忍は実家に帰省する。
 駅までの長い道のりを、二人はただ無言で歩き続けた。

『同居の話……無かったことにしてくんねぇかな』

 あれから、表向きは何事もなかったかのように普通に過ごしているが、二人の間に流れる空気が微妙に変化したことに互いに気づいていないはずもなく。

「光流……」

 先に口を開いたのは忍の方だった。

「卒業したら、実家に帰るつもりなのか?」

「いや……帰るつもりはねぇ」

「だったら……」

そこまで言って、忍は目を伏せて口を閉ざした。
不安感を隠せないその瞳をチラリと見て、光流は黙って歩き続ける。


「忍」

 人気のない道端で、光流がぴたっと足を止めた。
 同じように忍も足を止め、酷く真剣な光流の顔を見つめる。

「ずっと……嘘ついてて、ごめんな」
「嘘……? 何のことだ?」
「俺がおまえと一緒に住めない理由……」
 まっすぐに忍の瞳を見据え、光流は苦しげな表情をする。
「光流……?」
 どうしたのだと、忍が口を開きかけたその時、突然、光流の手が忍の手首を掴み引き寄せた。
「……っ……」
 忍が大きく目を見開く。  ほんの一瞬だった。

 光流は触れた唇を離すと、動揺を押し殺そうとしている忍に、落ち着いた表情だけを向ける。
「なんの真似だ」
「分からねぇ?」
 戸惑いを露にした忍の瞳を、光流はなおも視線を逸らさず見つめる。
「もう……分かるだろ? キスの意味くらい」
 真剣な光流の瞳に、忍は驚愕を隠せない表情を向け、少しの間を置いて目を逸らし、躊躇いがちに口を開いた。
「……嘘だ」
「嘘じゃない」
 疑惑に満ちた瞳が、また光流を見つめる。
「嘘だ……!!」
 酷く傷ついた瞳。
 これが最後なら。
 光流は忍の肩を掴み、再度、忍の唇に自分の唇を重ねた。
 刹那、思い切り突き飛ばされ、光流は足をよろめかせる。
 今にも泣き出しそうな目が、絶望感を伴って自分を見つめる。
「ごめん……」
 光流は小さくそう言い放つと、忍に背を向け、その場から歩き出した。


 雪が降り始めた。

 空が泣いているようだと思った。

 いっそ自分も泣けたら。

 せめてこの胸の痛みも、地面に落ちては溶けていく雪のように、消えてくれるのだろうか。