不安感を隠せないその瞳をチラリと見て、光流は黙って歩き続ける。
「忍」
人気のない道端で、光流がぴたっと足を止めた。
同じように忍も足を止め、酷く真剣な光流の顔を見つめる。
「ずっと……嘘ついてて、ごめんな」
「嘘……? 何のことだ?」
「俺がおまえと一緒に住めない理由……」
まっすぐに忍の瞳を見据え、光流は苦しげな表情をする。
「光流……?」
どうしたのだと、忍が口を開きかけたその時、突然、光流の手が忍の手首を掴み引き寄せた。
「……っ……」
忍が大きく目を見開く。 ほんの一瞬だった。
光流は触れた唇を離すと、動揺を押し殺そうとしている忍に、落ち着いた表情だけを向ける。
「なんの真似だ」
「分からねぇ?」
戸惑いを露にした忍の瞳を、光流はなおも視線を逸らさず見つめる。
「もう……分かるだろ? キスの意味くらい」
真剣な光流の瞳に、忍は驚愕を隠せない表情を向け、少しの間を置いて目を逸らし、躊躇いがちに口を開いた。
「……嘘だ」
「嘘じゃない」
疑惑に満ちた瞳が、また光流を見つめる。
「嘘だ……!!」
酷く傷ついた瞳。
これが最後なら。
光流は忍の肩を掴み、再度、忍の唇に自分の唇を重ねた。
刹那、思い切り突き飛ばされ、光流は足をよろめかせる。
今にも泣き出しそうな目が、絶望感を伴って自分を見つめる。
「ごめん……」
光流は小さくそう言い放つと、忍に背を向け、その場から歩き出した。
雪が降り始めた。
空が泣いているようだと思った。
いっそ自分も泣けたら。
せめてこの胸の痛みも、地面に落ちては溶けていく雪のように、消えてくれるのだろうか。