trap

 

 シャワーオッケー!

 ゴムもローションもティッシュも準備は万端!

 濡れた髪をタオルでがしがしと拭きながら、光流は己に気合を入れ、忍の待つ部屋へ向かうため浴室の扉を開いた。胸の鼓動がいやに高まる。

 それもそのはずで、今日は記念すべき特別なエッチ体験日。永久に叶うことはないであろうと思っていた夢が、今まさに叶おうとしているのだ。

 

 事の始まりは一週間前。光流が威勢良く対戦を挑むものの、何度やっても勝てないテト○スを前に、一度でも勝ったら何でも言うことを聞いてやると忍が鼻高々に言い放ったのがきっかけだった。それから光流は一週間、死に物狂いでテト○スの猛特訓を開始。ろくに睡眠もとらず試練に試練を重ね、ついに忍を敗退に追いやったのだ。

 約束どおり、何でも言うことを聞いてもらう。そう言って光流が忍に求めた勝利のご褒美は、「裸エプロン」であった。

 当然、忍は死んでもやらんと断った。しかし光流は譲らなかった。なぜならそれは男の永遠の夢。浪漫。パラダイス。せっかく目の前に転がったチャンス、逃してなるものか。生きている内に何がなんでも一度は経験してやる。嫌がる忍に「約束破るなら別れる!」とまで言い切って脅迫し、どうにかこうにか承諾させ、今日ようやくその権利を遂行しようとしている次第であった。

 

 光流は浴室を出て、先に風呂に入って裸エプロンで待っているであろう忍の部屋の扉の前に立ち、大きく深呼吸をした

 この向こうにパラダイスが待っている!!! そう思うと、今にも流れ出そうな鼻血をこらえるのが精一杯だった。

 胸をときめかせながら、そっと扉のドアノブに手をかける。心臓をばくばくさせながら、光流は静かにドアを開いた。

 

「忍……?」

 部屋の中に足を踏み入れる。少しの明かりだけがついた部屋は薄暗い。

 部屋にいるであろう忍に小さく呼びかけると、ベッドの上の影がわずかに動いた。

 光流はそろそろとベッドに歩み寄る。ベッドの上で横になり、首までかけ布団をかけている忍の顔を覗き込むと、忍は酷く不機嫌そうな視線を光流に向けた。

「……入れろよ」

 頑なな表情でぎゅっとかけ布団を掴んで放さない忍に、光流は「往生際が悪い」と諌めるが、忍はやはり恥ずかしくてたまらないのか、なかなか布団の下の身体を露にしようとしない。

「あのな……どーせ見せなきゃならねぇんだから、隠したって余計に恥ずかしくなるだけだぜ?」

 当然ながら光流は、忍がどんなに嫌がったって、ここまで来て逃すつもりは微塵もない。

「なあ、早く見せて?」

 キツい目で睨みつけてくる忍の耳元に唇を寄せて、少しでも警戒心を解くために、優しく囁いた。

 そっと頬に唇を落とすと、忍はようやく覚悟を決めたように、躊躇いがちにおずおずと掛け布団を捲り上げる。

 全裸に黒い男物のエプロンを纏った忍の姿を目前にした瞬間、光流の鼓動がズキュンと高鳴り、脳天まで直撃するような興奮が全身に駆け巡った。

申し訳程度に隠れた透き通るような美肌。恥じらいばかりを露に顔を背ける、憂いを帯びた表情。今まで見たどんな芸術品よりも心を打たれるその姿は、あまりにも官能的でエロすぎた。光流は興奮ばかりを胸に、「俺の妻!!!!」と心の中で大絶叫する。

「や、やっぱり……」

「いい!!」

 忍がもう耐えられないとばかりに上半身を起こそうとした途端、光流は忍の身体にがばっと抱きついた。

「すっげーいい!! 最高!! やっぱおまえ、最高!!!」

 ここまでくると、もはや芸術品を通り越して神から賜った贈り物だ。神様ありがとう。そう心で叫びながら力いっぱい抱きしめた後に、再び忍に目を向けると、相も変わらず耳まで顔を赤くして恥らっている。だめだ可愛すぎる。またも心の中で大絶叫して、潰してしまいそうな勢いでぎゅっと忍の身体を抱きしめる。

「忍……」

 背けてばかりの忍の顔にそっと手を当て、光流は唇を重ねる。柔らかいその感触に、下半身の熱が一気に高まった。

 角度を変えて何度も口付けると、やがて忍も応えてきた。徐々に激しさを増していく口付けと共に、肩に、腰に、五本の指をなぞらせる。絹のように触り心地の良い肌が、着々と熱を帯びていく。愛しくて、いっそこのまま食べてしまいたいような気持ちにかられ、喉に歯をたてたい衝動を必死でこらえながら、代わりに跡を残すほどに何度も吸い付く。独占欲の証をいくつも肌に残した頃、光流の息はすっかり上がっていた。

 黒いエプロンを纏った忍を再度見下ろすと、やはりまだ恥ずかしいのか、決して視線を合わせてはくれない。その様子がたまらなく可愛くて、胸の内がキュンと疼いた。

 エプロンの隙間からチラリと覗く桜色の突起。エプロンの下から手を潜り込ませ、そっと左手の人差し指と中指で乳輪をなぞる。ピクンと小さく忍の身体が反応した。

 下半身に右手を伸ばし、太ももをなぞる。じわじわと足の付け根に指を滑らせると、ねだるように忍が腰をくねらせた。

「……ん……っ……」

 忍が顔を横に背け、ぎゅっと目を閉じる。夢に見ていたよりもずっと、可愛くていやらしくて色っぽいその姿に、ただ愛しさばかりが募る。

 少しばかり焦らしたせいか、先端からは先走りの液が滲んでエプロンに染みを滲ませていた。うんと死ぬほど可愛がってやりたい。光流はパジャマのポケットに放り込んでおいたローションを取り出すと、蓋を開け手の平にとった。濡れた手で忍の性器を包み込む。全体を充分に濡らしてから、親指で先端をこすると、忍が足を震わせて腰を揺らす。まるでもっともっととねだられているようだ。

「あ……、ぁ……っ、も……や……!」

 明らかに焦らして、決して強い刺激を与えてはくれない光流に、忍はたまらず声をあげる。光流がクスリと微笑んだ。

「忍、『あなた』って言ってみて?」

 光流のふざけた台詞に、しかし忍は既に怒る気力も無いほど限界寸前まで追い込まれていた。

 嫌だと首を振る忍に、光流は緩やかな愛撫ばかりを加える。くちゅくちゅと卑猥な音が響いて、忘我した忍の口元から唾液が流れる。忍は苦しくてたまらないように身を捩ると、懇願するような瞳を光流に向け、躊躇いながらもようやく声を放った。

「あ……、あな……た……」

 ピンク色に染まった頬と、潤んだ瞳。羞恥ばかりを露にする忍を前に、光流は心の中で再度「俺の妻!!!!!」と大絶叫する。

「忍……っ」

 光流はキュン死しそうなほどの歓喜を胸に、忍の火照った体を力いっぱい抱きしめる。

 もう絶対に死ぬまで一生離さない。そう心で硬く誓い、瞳に涙すら滲ませた。

 左手で抱き寄せながら首筋や鎖骨に唇を寄せ、右手で硬く張り詰めた忍の性器を上下に扱く。

「あ、あ……、みつ……っ、る……っ!」

 ゾクゾクと背筋に鳥肌がたつような声が耳元で響き、忍が弓なりに背を仰け反らせたと同時に、白濁が光流の手を濡らした。

 忍の絶頂と共に、光流もまた激しい高揚感に身を包まれる。しばらくの間、忍の体がビクビクと震え、大きく呼吸を乱しながらぎゅっとシーツを握り締める。忍が我を取り戻すまでの時間、光流は満足げにその様子を眺めた。自分がここまで乱れさせたという充足感が光流を満たす。

 ようやく呼吸が整った忍の肩に手をかけ、うつ伏せになるよう促す。

「後ろから、いい?」

 光流の言葉に、忍は従順に従った。腕と膝をたて、四つん這いの姿勢をとる。

 エプロンを纏ったままの、背筋のラインがたまらなく色っぽい。途端に凄まじい征服欲が光流を支配した。赤子のようにすべすべとした肌に指を這わせ、柔らかい尻の肉を掴む。押し広げた場所に、まだ自分しか受け入れたことのない蕾が露になる。すぐにでも入りたい衝動を押し殺し、光流はそこに唇を寄せた。舌を捻じ込むと、忍が小さな嬌声を放ち腰を引くが、構わず忍の内部を舌で蹂躙する。忍の足がふるふると震え、乱れた息遣いが静かな部屋に響いた。

充分に濡らしたところで唇を離し、ヒクついているそこにローションで湿らせた指を挿入する。奥の性感帯を探ると、忍の性器がまた反応を示した。

「ん……、く……、っ……」

 更に指を増やし、奥を突いては引き戻す。快楽がたまらないのか上半身を伏せ、徐々に足を開いていく忍の痴態が心地よい。このままずっと喘がせていたい気もするが、自身の熱ももう限界だった。

 光流は指を引き抜いて、忍の腰を掴むと、熱くそそり立った自身を一気に押し込む。充分にほぐしたおかげで、そこはすんなりと光流を受け入れた。

 突くたびに締め付けられる感触が理性を狂わせる。もっと強い刺激が欲しくて、光流は忍の背に覆いかぶさり、前を握り込んで上下に扱いた。更にきゅっと自身を締め付けられる。繋がっていると感じられるこの瞬間が、なにもかもを忘我させる。

 激しく揺さぶられ、忍が上半身を支えきれず、更に腰を高く突き上げた。前も後ろもぐちゃぐちゃと擦れ合う音が響き聴覚を刺激し、更なる高みに導かれる。もっと。もっと欲しい。こんなものじゃ全然足りない。もはや光流に忍の体を気遣う余裕は無く、ただひたすら己の快楽に没頭する。

「あ……っ、あ……! や……っ、ぁ……!!」

 逃げようとする腰を捕らえ、更に激しく繋がる。肉を打つ音が響き、光流のこめかみから流れた汗が忍の背に滴り落ちる。もう何がどうなっても良いような快楽の中、光流は忍の中にすべてを解き放った。

 

 

 すっかり汚れたエプロンを脱ぎながら、忍が疲れきった様子で息を吐く。

 まったく、何が悲しくてこんな格好をしなければならないのか。理性を取り戻した頭で思い出すと、あまりの情けなさと羞恥で激しい自己嫌悪に苛まれた。

「なあなあ、またやって~!」

 そんな忍の心境などお構いなしに、光流は背後からがばっと忍を抱きしめる。

 忍はいっそ殴ってやろうかと思いながら振り返ると、すぐ目の前に満面の笑みを浮かべた光流の顔があって。

「ん?」

 思わず凝視すると、光流はきょとんと酷くあどけない表情を向けてくる。

「楽しかったか?」

 なんだか急に怒る気が失せて、忍は穏やかな声でそう尋ねた。

「うん、すっげー楽しかった!!」

 今度は前からがばっと抱きつかれて、ぎゅっと強く抱きしめられる。

 当然ながら忍は、もう二度とこんな格好をするつもりはない。ないけれど。

「光流」

「なに?」

 忍はそっと光流の耳元に唇を寄せる。

 それから「あ・な・た」と低い声で囁くと、途端に光流が顔を真っ赤にさせた。

にっこりと悪戯じみた笑顔を浮かべる忍を前に、光流はもう二度と逃げることは叶わない蜘蛛の巣に引っかかったような気がした。