QUEEN

 

 

 

「くそ……っ、もはやこれまでか……!!」

 絶体絶命のピンチに追い込まれ、レッドが地面に手をついた。

「諦めろ、デビルレッド! 世界はこの私、サターン様のものだ!!」

 悪の組織のボス、サターンが高らかに笑い声をあげる。

「諦めちゃ駄目! レッド!! 立ち上がるのよ……!!」

「そうだ……っ、俺達は負けるわけにはいかない……!!」

 渾身の力を込め仲間達が立ち上がり、その声に励まされレッドも立ち上がる。。

「無駄なことを。五人まとめてブラックホールに送りこんでくれるわ!!」

「いくぜ! みんな!」

 威勢の良い声と共に、レッドが決めポーズを作った。

「デビルレッド!」

「デビルブルー!」

「デビルイエロー」

「デビルピンク!」

「デビルグリーン!!」

「魔界戦隊、デビルレンジャー!!!」

 レッドの魔道剣がサターンに向けられる。

 身構えるサターンに勢い良く蹴りを入れ、レッドはサターンを倒した。サターンが倒れレッドが決めポーズを作る中、「魔界戦隊デビルレンジャーショー」を観覧していた子供たちの拍手が鳴り響くのであった。




「お疲れ~、光流」

「おう……」

 百貨店の屋上に設置されたテントの中、光流はバイト仲間に声をかけられ、力なく返事をする。

「しっかしバイトのサインで500円って、ぼったくりだよなぁ。一応頑張ってらしく書いてみたけど、超適当だぜ?」

 現在放映中の子供向け特撮番組「魔界戦隊デビルレンジャー」のレッドの衣装を脱ぎながら、バイト仲間がうんざりしたように言った。その隣で、光流は悪役サターンの衣装を脱ごうとするが、右腕を衣装から引き抜こうとしたその瞬間、表情が大きく歪んだ。

「どーした?」

「やべ……なんか、骨折したみてぇ……」

 顔色を青くしながら光流は言う。レッドに本気で蹴りを入れられ、上手く避けそこなったせいで派手に転倒した時に、嫌な予感はしていた。痛みばかりが増していく右腕をどうにか動かそうとしても、腕は力なく垂れ下がるだけだった。

 
 結局全治一ヶ月。ギプスをはめた右腕を前に、光流は深くため息をついた。

「はりきりすぎるからだ、馬鹿」

「ジャンケンで負けたのが痛かったぜ……」

 絶対にレッドがやりたかったのに、何で負けてしまったんだ自分。思いながら、光流はまたしても肩を落とす。そんな光流を前に、忍もまた仕方ないように小さく息をついた。

臨時のバイトなど断れば良いものを、お人好しにもホイホイ引き受けてはりきって大怪我して、結局他のバイトもしばらく休むはめになるなど、まったくもって光流らしくて呆れる以外のなにものでもない様子だ。

「やっぱ右手使えねぇって不便すぎる」

 左手で箸を握り締め、夕食の煮物を掴もうとするものの、右利きの光流には当然うまく掴めない。

「忍~、食わして~」

「フォークで食え」

 甘えた声を出す光流に、忍はきっぱり言い切ってフォークを差し出した。ちぇっと舌打ちして、光流は左手でフォークを受け取る。

 その後もやはり、食いづらいだのそれくらいしてくれてもだの冷たいだのと文句を連ねつつ夕食を全て平らげ、風呂に向かう。

「忍~、頭洗って~」

「そのくらい自分でしろ」

「洗えねぇから頼んでんだろ!」

 やや声を荒げられ、忍は渋々と風呂場に向かった。

 
 その後もやれパジャマのボタンがしめられないだの布団が敷けないだの、何だかんだと理由をつけてここぞとばかりに甘えて来ようとする光流に、忍は先の一ヶ月が思いやられるのを感じつつ、パジャマのボタンをしめてやる。

 不意に光流の手が忍の頬に添えられた。

 そのまま顔が近づき、そっと唇を重ね合う。舌を絡ませながら、忍のパジャマのボタンに光流の手がかかる。けれど左手ではいつものようにスムーズに外すことが出来ず、長すぎるキスにさすがに限界を感じて唇を離し、二人同時に眉をしかめた。

「やっぱ……無理?」

「治るまで我慢しろ」

「えーーーーっ!!!」

 忍の冷めた一言に、光流は目一杯不満を露にするが、忍はそんな光流に一瞥をくれると立ち上がって背を向けた。

「じゃあ、じゃあせめて口で……っ!!」

「我慢しろ」

 精一杯悪足掻きをする光流であったが、忍は冷たい言葉と視線を向けるばかりであった。


 しかしやはり三日もしない内に限界は訪れるもので。そもそもこのところ毎日のようにしていたのに、治るまで我慢なんて出来るわけがない。

「忍―――っ!!!」

「煩い」

 布団に入った途端に抱きついてくる光流の顔面に蹴りを入れ、忍は即効で眠ろうと光流に背を向けるが、背後から負のオーラが漂うのを敏感に感じて眉間に皺を寄せる。それでも無視し続けていると、背後から光流の左手がパジャマの中に伸びてくる。もう一度蹴りを入れてやろうかと思ったその時、首筋に熱い唇の感触が走り、忍は思わずビクリと身体を震わせた。

「おまえ、いい加減に……っ」

「無理」

 忍は身を捩って光流の身体を押しのけようとするが、光流はきっぱりとそう言い切ると、パジャマの下の忍の素肌に指を這わせる。脇腹を撫でられて、忍がまたも小さく肩を震わせた。嫌だと言う割にはずいぶんと顕著な反応を示す。自分だって限界のくせに。光流は心の中で呟いて、忍の胸に指を移動させる。突起を摘むと、忍がわずかに高い声を漏らした。

「もう濡れてんじゃねぇの?」

 からかうような口調で耳元で囁くと、忍が気の強い瞳を光流に向けた。ようやく顔を向けてくれた忍の唇に、反論を塞ぐように唇を重ねる。舌を差し入れると、忍はすぐに応えてきた。

 濃厚な口付けを交わしながら、指で突起を弄ぶ。忍の頬が徐々に紅潮していき、長いキスの後に唇を離すと、その瞳は欲情の色に染まっていた。

「服……脱いで?」

 互いにもう限界なのは百も承知だった。

 光流が耳元で低く囁くと、忍は上半身を起こしパジャマのボタンに手をかける。上から二つ目のボタンを外したところで、忍の手がピタリと止まった。寝転んだまま忍を見あげていた光流が「どうした?」と怪訝そうに尋ねると、忍は何やら怪しげな視線で光流の額を小突いた。

「そんなに物欲しそうな顔をするな」

 クスリと微笑む忍に、光流はやや表情を赤らめる。それから「仕方ねぇだろ」と拗ねたように口をとがらせた。

 そんな光流の様子が可笑しくて、忍は再びパジャマのボタンに手をかけてから、またも怪しげな笑みを浮かべた。光流の顔を見ると、まるで餌待ちの犬のように忍が裸になるのを待ち焦がれている。少し焦らしてやるか。酷く嗜虐的な想いで、忍はゆっくりとした動作でボタンを全て外すと、右肩から衣類を滑らせる。上半身が露になると、光流が待ってましたとばかりに忍の肩に左手をかけて押し倒した。性急に唇を胸に寄せると、忍の手がそれを制する。

「全部脱ぐまでお預けだ」

 有無を言わさない口調と艶めいた視線。光流は何故か逆らえなくなり、言われるまま上半身を起こして、布団の上に正座する。

 忍は口の端を上げ、まだ左腕に引っかかっていたパジャマの上着を全て脱ぎ捨てた。白く細いバランスのとれたしなやかな肉体美が空気に晒され、光流の欲情を煽る。光流は今すぐにでも飛びつきたい衝動にかられるが、忍の「待て」という鋭い視線がそれを遮った。

 忍の手がパジャマのズボンにかかる。ゆっくりと下着ごとずらしていくが、なかなか全てを露にしようとはしない。明らかに焦らしている様子の忍に、光流はいいかげん我慢の限界を感じて腰を上げ、忍の上に覆い被さった。

「光流」

「無理!!」

 本気で我慢できないと訴える光流の身体を、忍はあくまで冷徹に押しのける。光流はもはや涙目だが、忍は余裕の視線を向け、それから光流の身体を布団の上に押し倒し体制を逆転させた。

「いい子で待てないならお仕置きだ」

 忍はそっと光流の頬に右手を添え、長い睫を伏せて低い声を発すると、光流のパジャマのズボンに手をかけ下着ごとずらし、露になった光流自身に唇を寄せた。先端にペロリと舌を這わされ、光流が大きく身体を震わせる。裏筋を丹念に舐められ、熱い咥内に迎えられる。光流はぎゅっと目を閉じ左手で忍の髪を掴む手に力を込めた。

「あ……も……イく……っ」

 あまりに巧みな舌使いに限界を感じ声を発したその時、愛撫を中断された。

 忍は顔を上げ上半身を起こすと、息を荒くする光流の上に乗り、精を放ちたくて猛っている光流の自身を放置したまま光流の唇を塞いだ。

「し……のぶ……、早く……っ」

 唇を離すと、光流が苦しげに声を発する。忍は光流の頬に手を添えたまま冷笑を浮かべた。

「言っただろう? いい子に待てないならお仕置きだって」

 低い声で耳元で囁かれ、光流がますます苦しげに眉をしかめた。忍は光流のそんな反応を明らかに楽しんでいる表情で見下ろすと、パジャマのズボンに手をかけ、自分もまた硬く張り詰めている自身を露にした。瞳に興奮の色を浮かべながら光流の頭を両手で掴むと、半ば無理やりに光流の咥内に猛ったものを咥えさせる。光流が苦しげに眉間に皺を寄せた。

「……ん……く……っ」

 懸命に舌を這わせる光流を、忍は恍惚とした瞳で見下ろす。

 自らも腰を突き出し、絶え間なく襲ってくる快楽に酔いしれる。

「イ……くぞ……」

息を乱し額に汗を流し、忍は光流の咥内に精を解き放った。恍惚とした瞳で、ゆっくりと光流の咥内から自身を引き抜くと、息苦しさに頬を紅潮させた光流の口元から飲みきれない白濁が溢れ出した。

「おまえ……なぁ……」

 光流は左手で口元を拭うと、疲れたように息を吐き出し、呆れにも怒りにも似た声をあげる。しかし忍の不遜な態度は何一つ変わることなく、光流の左手を取ると人差し指を咥内に含んだ。そのまま吸われ、先ほど自身を愛撫された艶かしい舌の感覚を思い出し、光流は思わず目を閉じて肩を震わせる。

「ここが……欲しいんだろ?」

 忍は咥内から光流の指を引き抜くと、自分の秘部に湿った光流の指を導いた。光流は導かれるままに、忍の内部に指を埋める。いつものように慣らすために指を動かすと、忍が身体を震わせ嬌声を放った。

「早く……入れろよ……っ」

 右腕が動かないこの体制では、身体を反転させようとしても無理がありすぎる。光流はやや怒りを含んだ口調で忍に訴えた。半端に放っておかれたままの自身はとうに限界を超えている。

「入れさせて下さい、だろう?」

 忍は秘部に光流の指を咥え込んだまま、相変わらず嗜虐心を隠さない瞳で光流を見下ろす。駄目だ完全に心の底から楽しんでいる。光流は心の中で嘆きながら、悔しげに忍を睨みつけた。

「忍~~~……っ」

 こんな不自由な状態じゃなかったら、即効で体制逆転しているのに。光流は悔しさばかりを胸に忍を見据えるが、忍はやはり余裕の表情で。このままでは本気で何をされるか分かったものではない。

「入れさせて……下さい……っ」

 光流が屈辱を目一杯押し殺し声を上げると、忍は満足気な笑みを浮かべ、光流の指を引き抜いた。代わりに張り詰めている光流の自身を秘部にあてがい、そのままゆっくりと腰を沈める。奥深くまで繋がり合った瞬間、忍の表情が歓喜の色に満ちた。

「し……のぶ……っ、ちょ……待て……って……!!」

 腰を落としては浮かす忍の動きに翻弄され、あまりに性急な限界への導きに屈辱ばかりを感じ、光流は懇願の声をあげるが、忍の動きは変わらない。それどころかますます激しく腰を上下させる。忍のこめかみから汗が流れ呼吸が乱れ、ただひたすら己の快楽に没頭するその痴態は、あまりにも妖艶で甘美だ。

「あ……あ……っ、いい……っ!」

 あっという間に限界まで導かれ、忍の忘我した嬌声と共に二人同時に精を解き放ち、忍の自身から放たれた白濁が光流の顔にまで飛び散った。光流が反射的に目を閉じ、白濁に濡れた顔を酷く歪ませる。眉間に皺を寄せ、光流は忍を睨みつけた。

「おまえ……っ」

いい加減、好きなようにさせるのも限界だ。屈辱のあまり光流が声を荒げようとしたその時、突然ぐいと頭を掴まれ引き寄せられる。そのまま唇が重なり、忍の熱い舌が咥内で激しく動き回る。

「ん……っ」

 唇が離れると、今度は忍の舌が光流の顔に飛び散った精液を舐める。艶かしい舌の感覚に、光流は背筋がぞくぞくするのを感じながら、されるがままに目を閉じた。

「忍……もう……、いいって……!」

 まるで猫みたいに執拗に顔中を舐められ、光流は逃れるように顔を横に背けた。

 忍が光流の首に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。まるで「怒るな」と言ってるようで、甘えているようにすら見えたから、唐突に怒る気が失せて、光流もまた忍の背に左手を回し抱き締めた。

「……治ったら、ぜってぇ仕返ししてやっからな」

 まだ火照りの残る暖かい忍の身体を抱き締めながら、光流は小さく息をつきながら言った。

「でも気持ち良かっただろう?」

 顔を見合わせると、忍はまるで悪びれないどころか、酷く楽しげな表情をする。

 どうやら忍は本気で楽しくて仕方なかったらしい。けれど光流は二度とごめんだと本気で思った。思ったが、自分のしてきた事を思えば気持ちは分からないわけでもなく。

(たぶん)

 好きで、好きで、仕方ないから。

 そう思ったら、多少の横暴も我儘も悪戯も、許してやるしかないと思った。

「忍」

「なん……っ」

 突然、光流は身を乗り出し、左手に懇親の力を込めて体制を反転させ、忍の背を布団の上に押し付ける。

「もっかいしようぜ」

 光流は楽しげにそう言うと、返事も待たずに忍の唇を性急に塞いだ。

 遊びたいなら、とことん遊んでやる。でも、じゃれ過ぎたら噛み付かれるって事も、きっちり教えてやらねぇと。さて、どうやって泣かせてやろうか。高揚する気持ちを抑えきれないまま、光流は忍の首筋にがぶっと噛み付いた。