dinner
『今日は絶対に早く帰ってこいよ!?』
今朝、やけにはりきってそう言い残して仕事に出て行った光流の言葉を思い出し、忍は帰宅途中の道を歩きながら小さくため息をついた。
今日はクリスマス・イヴ。せっかく瞬と一緒に新しく出来たフレンチの店に行くと約束していたのに、キャンセルするはめになるとは。クリスマスなど、光流はどうせまた仕事だろうと、こちらは最初から全て割り切っているのだ。それなら例年通り仕事に行ってくれれば、こちらはこちらで勝手に好きな時間を過ごすというのに。
『いいよ、その代わり、明日の夜は空けておいてね?』
突然のキャンセルにも関わらず、瞬はいつも通り穏やかにそう言って許してはくれたが、忍としては不本意だった。
光流と一緒にクリスマスを過ごしたところで、家でたいして美味くもない料理を食べてロクな会話もないままベッドで過ごすのがお決まりだ。だったらわざわざクリスマスでなくとも、次の週末で充分なわけ
それにしても、もはや自分に光流への愛はあるのか無いのか。
またしてもため息をつきながら、夜道を歩き続ける忍だった。
マンションに辿り着くと、部屋の明かりがついていて、珍しく本当にクリスマス・イヴに早く帰ってきたのかと、やや意外に思いながら、忍は玄関の扉に手をかけた。
「ただいま」
「おかえりー」
リビングに入ると、光流はエプロンをつけてキッチンに立っていた。テーブルの上には(そこらのスーパーで買ってきた)チキンとシャンパン。どうやらはりきってクリスマスパーティーの準備をしていたらしい。
「……何を作ってるんだ?」
「見りゃ分かるだろ? ケーキだよケーキ」
「そんなもの買ってくれば良いだろう」
「それがいつものスーパーでもう売り切れててよ~。で、スポンジと生クリーム売ってたし、面白そうだから作ってみようと思って」
見ると光流の目の前には、数百円で売ってるスポンジケーキと生クリーム(格安の植物性)と苺が一パック。100%美味くなさそうな材料を前に、忍は「勝手にしろ」とばかりに目をすわらせる。
「にしてもこれ、なっかなか硬くならねぇんだけど、なんで?」
カシャカシャと泡だて器を回しながら、光流が眉をしかめた。ボウルの中の生クリームは緩やかに泡だっている程度だ。
「やり方が悪いんだ。もっと空気を含ませるように動かさないと」
「空気って……こう? ……あ!」
言われるまま、光流が荒々しく泡だて器を回したその時、中の生クリームが飛び散って、忍の顔面に直撃した。
「わ、悪ぃ!!」
光流は慌てて布巾で忍の顔を拭おうとするが、不意にその手がピタリと止まった。
「えっろ……」
何かが光流の本能を凄まじく刺激してしまったらしい。
それを察し一瞬にして表情が険しくなった忍の顔を、光流が突然がしっと掴み唇を寄せ、飛び散った生クリームを舌でペロリと舐めた。
「やめ……」
「られるわけねぇだろが! 予定変更! とりあえず一発!!」
完全に野獣と化した光流は、即効で忍の体を床の上に押し倒した。
もう嫌だこいつ。忍はそう心の中で嘆くものの、こうなってしまった以上止めることが叶わないのも嫌というほど分かっているので、仕方なくされるがままに衣類を脱がされる。抵抗する面倒臭さよりも、とにかく一発やれば気が済むだろうと、さっさと事を済ませてしまう賢明な道を選んだ。
あっという間に全ての衣類を剥ぎ取られ、忍の白い素肌が露になる。嫌そうな表情を浮かべつつも従順にされるがままになる忍を見下ろし、光流は満足げな笑みを浮かべた。乳首を摘むと、早くも下半身まで顕著に反応を示す。
ふと、光流の視界に、頭上のシンク上に置かれていた銀色のボウルが飛び込んできた。光流はニヤリと笑い、そのボウルに手を伸ばすと、床の上に置き、中のクリームを人差し指で掬い上げる。
「な……っ」
乳首に白いクリームを塗られ、忍が抵抗を示した。しかし光流は構わず、忍の乳首に唇を寄せ舌を這わせる。艶かしい舌の感覚に、忍の肩がビクッと揺れた。
「せっかくなら、美味しく食いてぇし?」
にこっと無邪気な笑顔を浮かべつつ、瞳の中に腹黒さを宿し、光流が言った。
クリームが塗られた乳首を、舌で味わうように執拗に弄ぶ。
「や、やめ……ろって……」
忍が首を振るのも構わず、今度は先ほどより多めのクリームを指で掬い、忍の自身にも塗りつけた。硬く猛って天井を示すそれに、白いクリームがトロリと流れるその様は、あまりにもいやらしく卑猥な光景だった。忍が羞恥に頬を染めて顔を背ける様子も、たまらなく可愛い。
「食っていい?」
光流がからかう口調でそう言うと、忍は案の定応えない。
どうやら焦らした方が良さそうだ。光流はクリームを自分の口に含むと、忍の唇に唇を重ねた。舌を絡ませると、甘ったるいクリームが忍の口から溢れ出て、顎を伝う。何度も角度を変えて一緒に味わっていると、やがて忍の手が光流の首に回された。
「は……やく……」
「ん……っ、ん……っ」
咥え込み、甘噛みして強い刺激を与えると、忍の足が震えて肌に汗が滲んだ。
達しそうになる直前で、口を離す。まだまだこの痴態ぶりを存分に堪能したい光流は、またもボウルの中のクリームを中指で掬い、忍の足を広げさせた。
露になった秘部に、クリームごとゆっくり中指を埋め込んでいく。
全て埋まると、緩やかに出し入れを繰り返した。指が出てくるたびに溢れ出る白い液体が酷く卑猥で、光流の性欲を刺激する。
「あ……、ぁ……、ん、や……っ」
じゅぷじゅぷといやらしい音をたてられ、忍が首を振って嫌がるが、光流は更に指を一本増やした。
クリームにまみれてよがる忍の痴態。終わらせてしまうのがどうにも勿体無い。光流はまたも含みのある笑みを浮かべて指を引き抜くと、次にシンク上に置いてあった苺のパックに手を伸ばした。
ルビーのように赤い苺を一つ手にとる。忍がその様子を見て、恐怖と期待の入り混じった瞳をした。こいつも大概、変態だし。光流はそんな身勝手な解釈と言い訳をして、再度忍の足を開かせる。忍がやや抵抗を見せたのもお構いなしで強引に足を押さえつけ、欲しがってヒクヒクと痙攣し白い液を流すそこに、赤い塊を押し入れた。
「ひぁ……っ!」
ヒヤリとした冷たい感覚に、忍が背をのけぞらせる。
後ろに異物を咥え、羞恥に頬を染めて涙を滲ませる忍の恥ずかしい姿を、光流は興奮の色を隠せない瞳で見つめた。
「いゃ……、抜い……っ……」
懇願の声に涙が入り混じる。
なんて最高のクリスマスプレゼントだろう。この日のために、死にもの狂いで仕事を終わらせて良かった。心からそう思いながら、光流は忍の目元に唇を寄せる。もっと存分に味わい尽くしてやる。キスをして、首筋に、胸に、足の付け根に唇を這わせる。膝裏に手をあて足を大きく広げさせると、中途半端に苺を咥え込んだ秘部がはしたなく露になり、光流はそこに唇を寄せた。
赤い果実を吸い、口の中で潰すと、甘酸っぱい味が広がっていく。たまらなくなって、光流は口の中の苺を飲み込み、膝立ちになってズボンのベルトをはずし、限界まで欲望が膨れ上がった自身を露にすると、そこにも白いクリームを塗りつけた。
すぐにでも突き入れたい衝動を抑えながら、自身を忍の秘部にあてがう。
「忍、おまえも食いたい?」
いちいち聞かなくたって、そこが欲しがっているのは明確だけれども。
「……ん……っ、欲し……い……っ……」
よがりながら潤んだ瞳で見つめられて、そんな言葉を口にされたら、いいかげん自分の熱も限界だ。
光流は忍の腰を掴み逃げないように固定させると、クリームにまみれた自身を忍の中へ突き入れた。一瞬、忍が腰を引いたけれど、むろん逃さない。何度も腰を激しく打ち付けると、擦れ合う音をたてて繋がった場所からクリームが溢れ出る。
「あ……あ……っ、だめ……っ、ぁ……!!!」
乱れに乱れた忍の声が、更に強く光流の快楽を煽った。
獣のような自分の息遣いを感じながら、何度も忍の奥深くまで潜り込む。こめかみから汗が流れ、引き締まった腕によりいっそう力が篭る。全て食らい尽くして、自分の中に閉じ込めたい。そんな嗜虐的とも言える想いで、忍の体を強く抱きしめる。忍の息遣いも荒い。唇を重ねあうと、甘さと熱で自分がどうにかなってしまいそうな気がした。
「すっげぇ気持ち良かった~!」
すっかり満足した様子で声を放つ光流の前で、そうかそれは良かったなどと思いながら、忍はのろのろと下着をつけ、風呂場に向かうために立ち上がろうとするが、途端に腰が砕けて床の上に手をついた。
疲労と情けなさで肩を震わせると、いきなり光流に抱き上げられる。
「風呂いこうぜ。んで、第二ラウンド開始!」
光流は何一つこたえていない笑顔でそう言うと、忍を抱いたままウキウキと風呂場へ向かった。
もう嫌だこいつ。
嘆いても仕方ないと分かっていても、明日の辛さを思うと、嘆かずにはいられない忍であった。
カチンとグラスを合わせる音が耳に心地よく鳴り響く。
「お誕生日おめでと、忍先輩」
「ああ……昨日はすまなかったな」
クリスマス兼自分の誕生日に、昨日予約していた店とはまた別のレストランを予約してくれた瞬に、忍は申し訳なさそうに言った。
昨日の突然のキャンセルに予定を狂わせただけでも迷惑だったであろうにも関わらず、クリスマス当日にこのレストランを予約するのは簡単ではなかったはずだ。しかし瞬は「昨日のお店は無理だったから、また今度行こうね」と明るい笑顔を放った。
上質の原材料ばかりを使ったフレンチのフルコース。味覚はこれ以上ないほど気の合う瞬が選んでくれた店だけあって、忍にとっては充分に満足のいく料理ばかりだった。
昔と少しも変わらず他愛ない会話を楽しみながら、最後にテーブルに運ばれたデザートを前に、忍の表情がやや曇った。
「どうしたの?」
「いや……甘いもの好きじゃないから、おまえ食べてくれ」
生クリームで飾られたデザートの盛り合わせが乗った皿を、忍は瞬の前に差し出した。甘いものも決して食べられないわけではないが、どうにも昨日の出来事を思い出して気分が悪くなった様子だ。
そんな忍の様子から、何かを察したように瞬が目を据わらせた。
「忍先輩、昨日、光流先輩と変なことしたでしょ?」
「……なんの事だ?」
勘だけは異常に鋭い瞬に尋ねられ、忍は一瞬言葉に詰まるものの、にっこりと笑みを浮かべて瞬の顔をまっすぐに見つめる。
瞬はますます怪訝そうに忍を見つめた。しかし敢えて何も尋ねることはせず、デザートの皿を受け取る。
「ありがと、僕、甘いもの大好きだから嬉しいよ」
同じように微笑みながら、瞬は言った。
忍は相変わらず平静を装ってるものの、瞳は少しも笑っていない。
(まったく……)
本気で嘘をつく時ほどまっすぐに人を見つめる癖は、昔とちっとも変わってない。瞬は呆れながらもスプーンで生クリームを掬い、それから含みのある視線を忍に向けた。
「で、気持ち良かった?」
尋ねると、微笑を浮かべたままの忍の眉が一瞬ぴくりと動き、瞬はにっこりと笑みを浮かべた。 |
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