child’s play

 

 

差し伸べられた忍の手に、光流はそっと自分の手を重ねた。

見つめ合う二人。

熱く絡み合う視線。

「王様、これで俺の話は終わり……」

 光流がゆっくりと口を開いたその時。

「カーット! カットカット!!!」

甲高い声が生徒会室に響き渡り、光流ががっくりと肩を落とした。

「池田先輩、そこは「俺」じゃなくて「私」でしょう?! いいかげんセリフちゃんと覚えて下さい!!」

子犬みたいに喚きたてる後輩、布施に、光流はうんざりした顔で「はいはい」と適当な返事をする。

「今日はこの辺で終わりにしよう。みんな、帰っていいぞ」

さすがにこの調子では何度やっても同じ事だと判断した忍は、生徒会役員にそう声をかけた。

忍の言葉に従順に頭を下げ、役員達は生徒会室を後にする。

後に残ったのは、忍と光流の二人だけだった。

「あー……もう無理っ!!」

仮眠用のマットの上に、半ば倒れるように寝転び、光流が疲れきった様子で声をあげる。

それもそのはずで、迫り来る文化祭の準備のためクラスの実行委員と部活と、忍に半ば強制的に参加させられている生徒会の劇の練習のおかげで、普段有り余っている体力もさすがに限界を迎えようとしていた。

「文句言わずに、いいかげんセリフを覚えろ。おまえのせいで全然進まない」

しかし忍はあくまで冷徹に、光流にむかって台本を投げつけた。

「鬼っ!!」

光流は忍を睨みつけながらも、寝転がったまま台本を開いてぶつぶつと読み始める。

その声を聞きながら、忍は椅子に座って作りかけの衣装を仕上げるため、針に糸を通した。
 しばらく繕い物をしていると、ふと声が止んで、目を向けると光流は台本を顔の上に乗せたまま眠りに落ちていた。

忍は小さくため息をつき、光流の元に歩み寄る。傍らに膝をつくと、そっと台本を取り除いた。

その下から現れる、よく見慣れた寝顔。

(寝てる時は可愛いのに)

ふとそんなことを思いながら、じっと光流の寝顔を見つめてしまう。

さすがに緑都クイーンの座を誇るだけあって、光流は本当に可愛い顔立ちをしている。少し日本人離れしている、長い睫に白い肌、軽くウェーブのかかった柔らかい髪。これだけの容姿をかね揃えていながら、このむさ苦しい男子校でなぜ今まで無事でいられたのか疑問になるほどだが、そこはやはり、外見とは程遠い色気の無さによるものだろうか。

今にも涎を垂らしそうな下品な寝姿を前に、しかし忍の表情は穏やかなものだった。

思わず触れたくなって手を伸ばしたその時。

ガシッと手首を掴まれて、忍の体が光流に引き寄せられた。

「また狸寝入りか」

勢い良く身体が回転しマットの上に押し倒された忍が、呆れたように言う。

「分かってたくせに」

光流は不敵な笑みを浮かべそう言うと、ゆっくりと目線を近づけていき、忍の唇に自分の唇をそっと重ねた。

「よせよ、体力奪われるぞ」

うっかり手を伸ばした自分を呪いながら、忍はさして抵抗もしないまま、いちおう訴えるだけ訴えてみる。

寝てる時だけは可愛いのに、起きた途端にコレだ。今にも気絶しそうなほど疲れているのに精力だけは衰えないのかと思うと、感心を通り越して呆れるしかない。

「でも疲れてる時って、ヤりたくなんねえ?」

「ならない」

忍のネクタイを外しながら、頬や額に唇を寄せる光流に、忍はまるで冷静に応えた。

そもそも忍は、そこまで疲れるほど無駄に体力を消耗したことはない。今回の文化祭の準備においても、℃企画を決めて生徒会役員に仕事を割り振り動かすだけで、忍自身は特に大した仕事をするわけでもなく、空いた時間には賭博の準備をしたり、睡眠もしっかりとっている。

光流のように断りきれず、自分を限界に追い込んでまで紛争する方が要領が悪すぎるのだ。最も、光流に劇を押し付け限界に追い込んでいるのは自分だということも、忍には分かっているのだけれど。

「……っ……」

耳に舌を這わされ、思わず体が震える。

いいかげん光流の体を押しのけようとしたその時、不意に光流の動きが止まった。

「……?」

いきなり光流の体重が重くのしかかってきて、よく見ると今度は本当に眠ってしまっていた。

忍は眉をしかめながら、光流の体を押しのけマットの上に転がすと、上半身を起こしてネクタイを締めなおす。

(さすがに疲れてる、か……)

ここまでしておいて途中で寝てしまうなんてこと、初めてかもしれない。

いいかげんこき使い過ぎたかなと思い、忍はそっと光流の柔らかい髪を撫でた。

我ながら、甘えていると思う。

だがもちろん後悔はしていないし、終わるまでは存分にこき使うつもりだ。文句を言いながらも、光流は絶対にやり遂げてくれることも知っているから、遠慮はしない。

(可愛い……)

先ほどとはうって変わった天使みたいな光流の寝顔に、ふと愛しさが込み上げてきて、忍は光流の額にそっとキスをする。

そうしたら、なんだか止まらなくなった。

唇にもキスをすると、光流は小さく声をあげて、首を振る。

口も効かず抵抗も示さない、目も閉じられている光流を、自分の好きなようにするのは容易いことだった。

悪戯心にかられ、そっとネクタイとシャツのボタンを外して前をはだけ、ズボンのベルトもはずして下半身を露にする。それでも光流は目を覚ます気配はない。

(ま、起きたら起きたで)

喜ぶだけに違いないから、そのまま忍は行為を続ける。

光流の自身に唇を寄せ、少し舌を這わせただけで、そこは敏感に反応した。

「……ん……っ」

耳に届いた光流の声は、無意識のまま発せられたものだ。

構わず舌でくびれの部分を刺激すると、感じるたびに体が小さく震える。

「あ……、しのぶ……っ」

まだ目は覚めていないのに自分の名前を呼ばれ、忍はわずかに気持ちが高揚するのを感じた。

いったいどんな夢を見ているのだろう。だいぶ気になるところだ。

「も……そこ……違うって……っ、そこ……そこだっつの!!」

次第に大きくなっていく声に、忍は額に青筋をたて目を据わらせた。

夢の中でも下品な奴だと、つくづく思わずにはいられない。

「ちょっと黙れ」

とりあえず下品な口は塞ぎに限る。

唇を重ねて舌を絡ませると、しっかり反応してくる。

もう限界を見せはじめている光流の中心部を握り締め、強弱をつけながら扱くと、すぐに光流の精液が忍の手を濡らした。

「気持ち……いー……」

ここまでしても、まだ光流は眠り続けている。

全て夢の中の出来事かと思っているのだろうが、それはなんだか癪に触った。それに一方的に終わるだけというのも、つまらない。

忍は濡れた指を光流の秘部にあてがい、ゆっくりと指を内部に埋め込んでいく。

「……あ……っ」

光流の感じる部分を探り当て、そこを刺激しながら徐々に広げていく。

そろそろ大丈夫だろうかと自分のズボンのベルトをはずし自身を露にすると、光流の膝裏に手を当て足を広げさせ、一気に自分のものを押し込んだ。

「……ってぇ……っ!!」

その瞬間、光流の表情が歪み、ほぼ同時にパッと目が開いた。

そして自分の今おかれている状況に気づくと、元々大きい目を更に大きくして、あくまで冷静な忍の顔を見据える。

「な……っ、何してんだおまえはっ!!!」

「見れば分かるだろう」

平然と言ってのける忍に、光流は動揺の色を隠せない。

「だからって、寝てる間にこれはないだろっ!!」

「ここまでして起きないおまえが悪い」

忍は飄々とした態度でそう言うと、開かせていた光流の足を押さえつけ、腰を動かし始める。

「んぁ……っ!!」

ビクンと光流の体が震えた。

二度目の昂ぶりを見せる自身を握りこみ刺激すると、頬がピンク色に染まっていく。

「おま……ズルい……っ」

睨みつけてくる光流の目を、忍は片手で咄嗟に塞ぎ、視界を奪った。

そしてそのまま、強い刺激を光流に与える。

「あ……、ふ……ぁあ……っ!」

激しく揺さぶられて、光流はすがるように忍の肩に指を食い込ませる。

光流の熱を強く感じながら、忍も額に汗をにじませ、光流の肩を強く掴んだ。

重なり合う鼓動。

二人同時に果てるまで、そう時間はかからなかった。


「人の寝込みを襲うのってどうよ?」

「だから起きないおまえが悪いんだろう」

「どう見たって俺は悪くねーよっ!!」

ズボンのチャックを閉めながら、光流は噛み付くように忍に抗議するが、当の忍はもうしっかり服を着込んで、全く相手にしていない。

「ものっそい体力消耗したわ~……眠ぃ……」

マットの上に寝転ぶ光流に、忍が右足で蹴りを入れた。

「寝るな、まだ仕事が残ってる」

「鬼っ!!!」

怒りながらも、光流は渋々と立ち上がり椅子に座ると、目の前の針山に突き刺さった縫い針に手を伸ばした。

「んでも、おまえからエッチしてくるなんて、どーいう風の吹き回しだ?」

光流は実に怪訝そうに忍に尋ねた。

滅多に……というより一度も、自分から誘ってもくれなければ欲求もしないのに、珍しいといったところだろうか。

まるで強姦なのに、何とも思っていない辺りが光流らしいといえばらしい。

「理由なんて、ない。したかったからしただけだ」

「ふーん、したかったから?」

そう言うと、どこか意味ありげな目つきで、光流は忍を見てニヤリと笑った。

途端に忍の目に険しさが宿る。

(この目が、嫌いなんだ)

思わず視線を逸らしたら、光流はまた面白そうな声をあげる。

「そっかぁ、したかったからかあ。俺って愛されてるなぁ」

自惚れるな、と言おうとしたけれど、また何か言い返されるのは面白くなく、忍は黙々と仕事を続けた。

「文化祭終わったら、目一杯しような」
 そう言ってにっこり微笑む光流を前に、忍は心の中で軽く後悔しながらも、気持ちは不思議と和らいでいた。