「ちがーうっ!!!! 光流先輩っ、何度言ったら分かるのっ? 今のステップはこう!!」
瞬の罵声と共に、カセットテープから流れる音楽が鳴り止んだ。
「だーっ!! いちいち細けぇよっ!! 今ので充分だろ?!」
額に汗を流しながら、光流も声を張り上げる。
狭い211号室で、テーブルを端に避け、必死でダンスの練習を繰り返す光流と瞬を、蓮川は半ば呆れ顔で、忍は涼しく微笑みながら見守り続ける。
「それにしても珍しいですね、瞬があれだけ熱血になるって」
「あいつはやる時はやる奴だからな」
かれこれ一時間は延々と踊り続ける二人を前に、蓮川は忍の言葉に「確かに」と頷いた。
そんな二人をよそに、光流と瞬は相変わらず熱意を露に、最近流行りの女性二人組ユニットのダンスに熱中している。
なぜ二人がそんなことをしているかと言えば、次の文化祭に行われる女装コンテストの為である。異例の学食券1ヶ月分という豪華商品を目的に、二人で女装ユニットを組めば優勝は確実であろうという理由の元、某アイドルユニットの曲をバックに必死で振り付けを覚えている真っ最中なのである。
「Heart on wave~……って、またずれたよっ、光流先輩!!!」
「だから細けぇっつの!! 3秒くらいの誤差は目ぇつぶれっ!!」
「何言ってるのっ!! そんなことで優勝できると思ってんの?! もっかい最初からいくよ!!!」
「わーかった、分かりました!! 蓮川、音楽流せ!」
「はいっ」
光流の言葉に、蓮川がラジカセの再生ボタンを押す。
曲が流れると共に光流と瞬が並び、マイク代わりの丸めた雑誌を片手に、思いっきり真剣な顔つきで、思いっきりしなやかな仕草と動きでもってダンスを始めた。
「おっしゃ完璧~!! これで優勝間違いないな、瞬!!」
「学食券1ヶ月分、確実にゲットだね!!」
一分の狂いも無い完璧な振り付けの後、二人はガシッと腕を組み合う。
「それはそうと光流先輩、ユニット名、何にする?」
「あー……そうだな、やっぱ頭文字をとって「M&S」でいいんじゃねーか?」
「なんか芸がないな~。スカちゃん、なんか良い案ない?」
「いや、そんなこと真剣に聞かれても……」
「緑林ガールズ略して「R-Girls」というのはどうだ?」
「あ、それ良い! さすが忍先輩!!」
「よっしゃ、いくぜ、瞬!」
「瞬アンド」
「光流の!」
「『R―Girls』!!」
ウインクと共に、しっかりポーズを作る二人であった。
当然ながら文化祭にて人気投票1位の座をゲットした「R-Girls」が、その後幾年にも渡り伝説のアイドルユニットとなったことは言うまでもない。
<おまけ>
その20年後。
「光流先輩っ、全っ然ちがーうっ!!!」
「だーっ!!! 30過ぎてこのダンスは無理だ無理!!!」
「何言ってるの!! そんなことで結婚式が盛り上げられるとでも思ってんの?! もっかい最初からいくよ!!」
最近人気のA○Bなんとかとかいうアイドルグループの中の二人組みユニットの曲をバックに、派手に息を切らせながら光流はよろよろと立ち上がった。
「あのさ瞬、俺らもう若くないんだぜ……?」
昨今の10代女の子が踊る動きっぱなしのダンスを必死で覚えるものの、本気でもう無理だとばかりに、光流が額に汗を流しながら床に手をついた。
「別に昔みたいに完璧は求めてないじゃん。でもせめてステップくらい覚えようよ。光流先輩、ホント体力も瞬発 力も落ちたねー。動きにキレが無いよ?」
「これでも体力は衰えてねー方だ……っ。つか、てめぇは医者のくせに何でそんな体力あり余ってんだよっ?」
「そりゃ(モテるために)若さを保つための努力は惜しまないよ。いいからいくよ! ほら立って!!」
「うう……」
「はい最初から! 瞬アンド」
「光流の!」
「『R-Girls』!!」
っていうかGirlsって年じゃねーよ!!と即座につっこむ光流と、あくまで練習を続けようとする瞬を前に、蓮川が半ば呆れ顔で口を開いた。
「20年たっても変わりませんね、あの二人」
「これを見ろ、蓮川」
ふと忍が、懐に忍ばせていた一枚の写真を蓮川に向けた。
「あっ、それは超プレミアの伝説アイドルユニットのお宝写真!!!」
「いくらで売れると思う?」
「そりゃ、万単位は間違いないでしょう。忍先輩……さすがですね」
「結婚式が楽しみだな」
キラリと目を光らせながら、邪悪な笑みを浮かべる忍であった。