幸せの話



「まま。きいていい?」
「ん。どうした、みつる?」

ままのおひざで、うとうとしていたら。
みつるがきたから、おれはちょっとだけ、よこにずれた。

そしたら、どーんとみつるがとびこんできて。
おれ、・・ちょっといたかったの。

みつるは、ままのこえが、だいすきで。
おれも、ままのこえが、だいすきで。

・・でもー・・。
なんだか、ねむくなってきちゃった・・。
みつるが、なにか、ままにきいてるのに・・。

「まま。なんでうちは、おれがみつるで、しのがしのなの?」

──わけ、わかんないよ。みつる・・。

でも、いつだってちゃんと、ままはみつるのいうこと、わかってくれるの。
ままが、きょうもちゃんと、やさしくわらって。
みつるに、こくんってうなづいてくれた。

「──どうしてお前が、パパと同じ光流って名前で、どうしてしのが、俺と同じ忍って名前なのか、不思議か?」
「うん! たかちゃんちも、ゆいちゃんちも、ぱぱやままのなまえ、たかちゃんやゆいちゃんとおなじじゃないんだって! ・・へんなのって、いわれちゃった」

・・みつる。
それできょう、ちょっとげんきなくて。
だいすきなおやつのぷりんも、のこしちゃったんだ・・。

おれたちの、だいすきなだいすきなままが、みつるとおれを、ぎゅってしてくれた。
だいすきな、やさしいままのこえが、とおくからきこえるー・・。

でもー・・。
やっぱり、ねむーい・・。

*
*

──お前達が、昔、二人一緒にパパと俺のところに来てくれるって分かったとき。
産まれてきてくれる、大切な大切な二人に、俺達がそれぞれ、一番大切な人の名前をつけようって、そう決めたんだ。

一週間、誰にも相談しないで、一生懸命考えて。
そして、パパと俺は、お前達の名前を決めたんだ。

光流は、しのぶって名前をつけるんだって、笑って囁いてくれて。
そして俺は、お前にみつるって名前をつけたいって、そう言ったんだよ・・。

*
*

・・ねむたくって、ねむたくって。
おれのとなり、みつるもごしごしって、めをこすってるし・・。

ままのこえ、きこえなくなっちゃう・・。

*
*

「ただいまー。──あれ、ちびたち寝ちゃってんのか?」

帰宅した光流は、炬燵に入ってる忍の膝に、小さな光流と忍が左右から突っ伏して、すやすや眠っているのに目を瞬いた。
そっと二人の頭を撫でていた忍が、少し眠たげな顔でほのかに光流に笑いかける。

「お帰り。──ちびたちと、ちょっと、昔の俺とお前の話をしてやってたんだ」
「へえ? どんな話?」

しゃがみこみ、目を細めた光流がそっと忍の頬に口づける。
擽ったそうに首を竦め、それから忍もそっと光流に唇を重ねた。

「・・昔の話。ちょっと、幸せだった話だ」
「ゆっくり聞きたいな。・・ベッドの中で」
「馬鹿。──ちびたちを寝かせるの、手伝ってくれるか?」
「勿論」

──幸せは、今も溢れるほどに、俺達の上に降り注いでいるんだと。
小さな体温を、光流と二人で抱きしめながら。
忍は、柔らかに思い、そして小さく微笑んだ。